最高裁判所第一小法廷 平成6年(あ)181号 決定 1997年6月09日
国籍
中国(台湾 台中県東勢鎮下城里七)
住居
兵庫県芦屋市岩園町二五番一二号
ゴルフ練習場経営
巫(ふ)阿渕
一九二一年四月二四日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成六年一月一四日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人村上幸太郎、同豊島時夫の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、再審事由の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
平成六年(あ)第一八一号
上告趣意書
被告人巫阿渕(ふあえん)
右の者に対する所得税法違反被告事件の上告趣意は左記のとおりです。
平成六年五月二六日
右被告人
(主任)弁護人 村上幸太郎
弁護人 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷
御中
目次
第一 はじめに・・・・・・一六六五
上告趣意書の構成及び記述の順序
一 賃料相当損害金について・・・・・・一六六六
1 原判決の判示・・・・・・一六六六
(一) 一審判決の理由否定・・・・・・一六六六
(二) 原判決の新たな判決理由・・・・・・一六六七
2 弁護人らの上告趣意の要旨・・・・・・一六六七
3 弁護人らの上告趣意を理由あらしめる特段の事情の発生・・・・・・一六六八
二 刑法六条適用について・・・・・・一六六九
第二 賃料相当損害金について・・・・・・一六七〇
一 原判決の判示・・・・・・一六七〇
1 背景事実の判示・・・・・・一六七〇
(一) 右事実中、訂正、補充を要するもの・・・・・・一六七〇
(1) 神崎土地所有名義となった日時の誤り・・・・・・一六七〇
(2) 登記請求事件一、二審判決の結論判示の誤り・・・・・・一六七〇
(3) 被告人の本件土地の占有開始時期の誤り・・・・・・一六七一
(4) 被告人の昭和五八年分までの所得税申告について・・・・・・一六七二
2 本件賃料相当損害金が令九八条により必要経費にならないとの判示について・・・・・・一六七二
(一) 理由その1・・・・・・一六七三
(二) 同2・・・・・・一六七三
(三) 同3・・・・・・一六七三
(四) 同4・・・・・・一六七三
(五) 同5・・・・・・一六七三
(六) 同6・・・・・・一六七四
二 原判決中令九八条に関する判示の不当性・・・・・・一六七四
1 基本的理論上の不当性・・・・・・一六七四
(一) 損害賠償金の定義について・・・・・・一六七四
(1) 原価計算基準における損害賠償金の定義・・・・・・一六七四
(2) 同基準と税法の規定との関連・・・・・・一六七五
(3) 企業会計原則と税法の規定との関連性・・・・・・一六七五
(4) 税法の用語についての判決例・・・・・・一六七六
(5) 結論・・・・・・一六七六
(二) 原判決の判断は法的安定性を欠き、課税所得計算の安定を害する。・・・・・・一六七七
(1) 本件賃料相当損害金は本来債務不履行によるものである。・・・・・・一六七七
(2) 訴訟の相手の選択する請求原因によって必要経費の成否が左右される不当・・・・・・一六七七
(三) 本件賃料相当損害金は前記令九八条の構成要件を欠く・・・・・・一六七八
(1) 業務関連性必要・・・・・・一六七八
(2) 被告人の本件土地占有は業務に関連して発生したものではない・・・・・・一六七九
(3) 所得税基本通達等の規定から推認される右令九八条の損害賠償金の性格・・・・・・一六七九
<1> 通達三七-二・・・・・・一六七九
<2> 通達四五-六・・・・・・一六八〇
<3> 通達四五-七・・・・・・一六八〇
<4> 通達四五-八・・・・・・一六八〇
(四) 他の法令の同種用語等からの考察・・・・・・一六八一
(五) 結論・・・・・・一六八二
2 被告人の本件土地占有は故意による不法行為に該当しない・・・・・・一六八二
(一) 登記請求事件の判決書検討によって否定される千葉単独所有・・・・・・一六八三
(1) 同訴訟の一審判決の事実認定・・・・・・一六八三
(2) 同訴訟の控訴審の事実認定・・・・・・一六八五
(3) 右認定事実によって否定される本件物件の千葉単独所有・・・・・・一六八五
(二) 民事訴訟当事者の主張自体によって否定される千葉単独所有・・・・・・一六八七
(1) 登記請求事件における原告千葉の当初の主張・・・・・・一六八七
(2) 土地明渡請求事件における原告千葉の主張・・・・・・一六八七
<1> 原審検察官請求証拠番号1報告書・・・・・・一六八七
<2> 原審弁護人請求証拠番号2報告書・・・・・・一六八八
<3> 千葉の主張等によって否定される千葉の単独所有・・・・・・一六八八
(3) 土地明渡請求事件における被告巫の主な主張と原告の反論・・・・・・一六八九
<1> 原審検1号報告書中の被告巫の主張・・・・・・一六八九
<2> 原審弁2号報告書中の被告巫の主張・・・・・・一六九〇
<3> 原告千葉の右<1><2>に対する反論・・・・・・一六九三
(三) 本件土地の所有権帰属に関する結論・・・・・・一六九三
(四) 本件賃料相当損害金が不法行為に基づく損害賠償金でないことについて・・・・・・一六九四
三 原判決中、収入より極めて多い支出は必要経費ではないとの判示について・・・・・・一六九七
1 原判決の判示する理由・・・・・・一六九七
(一) 理由その<1>・・・・・・一六九八
(二) 理由その<2>・・・・・・一六九八
(三) 理由その<3>・・・・・・一六九八
(四) 理由その<4>・・・・・・一六九八
2 原判決の違法理由・・・・・・一六九八
(一) 不意打ち判決による被告人の防禦権不当侵害・・・・・・一六九九
(二) 全般的不当性・・・・・・一六九九
(三) 判示理由ごとの当否・・・・・・一七〇二
四 原判決のその余の判示の不当性・・・・・・一七〇二
1(一) 原判決の判示・・・・・・一七〇二
(二) 右判示の不当・・・・・・一七〇三
2(一) 原判決の判示・・・・・・一七〇三
(二) 右判示の不当・・・・・・一七〇三
3(一) 原判決の判示・・・・・・一七〇五
(二) 右判示の不当・・・・・・一七〇五
4(一) 原判決の判示・・・・・・一七〇六
(二) 右判示の不当・・・・・・一七〇七
五 被告人が千葉に支払うべき金員を各年分の必要経費に算入することの妥当性・・・・・・一七〇八
六 原判決中賃料相当損害金に関する上告理由・・・・・・一七一二
第三 刑法六条適用遺脱について・・・・・・一七一六
一 原判決の判示・・・・・・一七一六
二 原判決の不当性・・・・・・一七一七
1 昭和六三年法律一〇九号の所得税額に及ぼす影響・・・・・・一七一七
2 税額の改正は刑法六条にいう「刑の変更」に当たる・・・・・・一七一八
3 罰則についての経過規定の必要性・・・・・・一七一九
4 刑の比照の必要性・・・・・・一七二〇
5 昭和七年四月一日の大審院判例(大審院刑事判例集一一巻一三号三一八頁)について・・・・・・一七二一
6 法一〇九号附則には所得税関係の罰則についての経過規定がないことについて・・・・・・一七二一
7 税法において税額の変更を伴う改正があった場合の罰則の経過規定・・・・・・一七二三
8 本件において刑法第六条の適用を要する理由・・・・・・一七二四
三 刑法六条不適用の違法性・・・・・・一七二五
第四 結論・・・・・・一七二五
第一 はじめに
弁護人は上告趣意書の構成を次のとおりとする。
まず、最も大きい争点である賃料相当損害金(用語は現時点では適切でなくなったが、原審までこの用語を使っていたので、本書面では暫くこの用語を使用する)の必要経費性と刑法六条適用の必要性につき、上告趣意等の概略を述べ、ついで本論に入って右二点のほかに、原審が弁護人の主張を排斥した理由説示の不当性もあわせて詳述し、原判決が刑事訴訟法四〇五条、四一一条のいずれにも該当し破棄すべきものである所以について述べることとする。
なお、本件は被告人と張寿郷(千葉喜代)との長年にわたる本件土地を含む土地についての紛争によって、被告人が駐車場用地等に使用している紛争土地の使用料を被告人の所得計算上必要経費に算入すべきかどうかが主たる争点となっているので、事案を簡単に理解して戴くため本件土地等に紛争を生ずる経緯から本件上告に至る経緯を記した経過一覧表を本書末尾に添付する。
一 賃料相当損害金について
1 原判決の判示
(一) 一審判決の理由否定
原判決は、被告人が占有している別訴神戸地方裁判所尼崎支部昭和五七年(ワ)第三九八号土地明渡請求事件(以下「土地明渡請求事件」という)の対象物件である一審弁九号証末尾添付目録の土地一一筆(以下「本件土地」という)につき、一審判決が弁護人の本件土地にかかる賃料相当損害金債務を被告人の本件事犯の対象年分の必要経費に算入すべきである旨の主張に対し、「被告人の千葉喜代(以下「千葉」という)に対する賃料相当損害金債務は確定しておらず、見積評価して必要経費に計上すべきであるとも解されないし、その額を適正に見積ることも困難であり、右債務額を被告人の所得計算上必要経費として算入すべきではないと解するのが相当である」旨の理由を述べて弁護人の主張を容れなかったので、その控訴審である原審において原審弁護人が、一審判決の右判示の違法を論難したところ、右一審の判示理由の当否について明確な判断をすることなく、後記する別の理由により右債務は必要経費とすべきではないと判示した上、単に一審判決が右債務を必要経費と認定しなかったのは「結局正当であって」(原判決四枚目裏)「その結論は結局正当である」(原判決一五丁裏)旨判示した。
右判示は一審判決が右債務を必要経費に算入しなかったのは正当であるが、算入しない理由として述べているところは誤っていることを半ば明示的に判示したものである。
したがって、一審判決が賃料相当損害金を必要経費にできないとした理由については原審において排斥されたものであるから、本書面では、一審判決理由の当否についてここでは特には触れない。
(二) 原判決の新たな判決理由
そして原判決は、右賃料相当損害金を必要経費に算入することはできないとし、その理由として新たに、大略次の二点を挙示している。
その一は、右損害金は、被告人が、故意に本件土地を不法占有することによって、千葉の所有権を侵害したことに対して支払われる不法行為に基づく損害賠償金であり、所得税法四五条一項七号、同法施行令九八条(以下「令九八条」という)の規定によって、被告人の所得計算上必要経費に算入できない、
というものであり
その二は、駐車場収入については、本件対象年分ではその二、六倍ないし三、四倍の賃料相当損害金を要するところ、支出よりもはるかに低額な収入を得るための経費として支出するというのは、収入を得るために必要な費用であるとは言えない
というものである。
2 弁護人らの上告趣意の要旨
原判決の右(二)の判示は、賃料相当損害金を右令九八条の規定に該当すると解した点に最高裁判所の判例と相反する判断がされているか、憲法に違反する法令を適用した違反があり、駐車場収入が賃料相当損害金(支出)より少ないことをもって、その支出を必要経費に認めないとする点において職業選択の自由を奪い、かつ判示理由全体が租税法律主義に反し、ひいて財産権不可侵の原則に反する点について憲法の違反があるほか、判決に影響を及ぼす法令の違反と重大な事実の誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると主張するものである。
3 弁護人らの上告趣意を理由あらしめる特段の事情の発生
原審においても明らかにされていた千葉から被告人に対する土地明渡請求事件(賃料相当損害金を附帯請求)につき平成五年一二月二一日判決言渡があった(別添資料1)。
右訴訟は本件土地は千葉の単独所有地であるにもかかわらず、被告人が占有しているので、明渡しを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求として昭和五四年六月一〇日以降の賃料相当損害金の支払いを求める、というものであるが、裁判所は、詳細に事実関係を調査した結果、本件土地のみならず、被告人の妻巫幸恵(以下「幸恵」という)名義仮登記土地等もあわせて被告人と千葉の共有であるから、被告人の本件土地の占有は不法行為にあたらず、明渡請求も出来ないとして千葉の請求を棄却した。
しかして、右判決は、第一審の判決でまだ確定はしていないが、
しかし、昭和五七年六月一〇日からの提訴以来平成五年一二月二一日の判決宣告まで実に一二年六月余という長期に亙って慎重に審理をつくしたうえで、あえて、所有権の帰属が訴訟物となってはいないが、傍論ながら所有権が千葉にある旨認定している上告審まで経た確定判決(大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第五九七八号所有権移転登記手続等請求事件〔以下「登記請求事件」という〕の上告審判決)に反する認定をされたものだけに、その判断は周到、緻密且つ理に合っており、特に、登記請求事件判決と相違することになった「被告人が取得する土地の二分の一を張に譲渡する約束に基づいて土地の分配のため仮登記がなされたかどうかに関する認定は、右判決がこれを積極に認定する根拠となった千葉と被告人の妻に対する所有権移転の仮登記について、分配以外にこれをする理由と必要があったとすることと特にその当時は右土地はまだ被告人の単独所有ではなく、より多い持分を有する東光実業との共有関係にあって、千葉に分配できる状況ではなかった」との点には、十分な説得力がある。
右判決は上級審においても必ず支持されるものである。
右判決は、本件刑事控訴審の結審後、判決言渡前になされたものであるが、原審弁護人は、後述のとおり賃料相当損害金が前記令九八条の損害賠償金に該当する筈がないと確信していた上、右判決書(別添資料1)によると被告人と千葉との共有関係にあると認定された土地は本件土地以外にも多く、調査したところ別添資料2の(一)(二)(三)及び図面のとおり、特にゴルフ練習場用地の相当部分を幸恵名義登記土地が占めているほか、駐車場にも幸恵名義仮登記土地があり、不動産所得として申告している貸家の敷地も千葉名義のがあり、いずれも被告人が単独占有しているから、被告人が本件土地等を含め、ゴルフ練習場及び駐車場営業や貸家の敷地に使用している共有土地の全部について、債務発生原因及びその名称に関し学説、判決例は分れているが賃料相当額の半額相当の補償金を千葉に支払う債務の存在が予測され、右金額は結局本件賃料相当損害金とほぼ同額となるであろうと見込まれたので、被告人にとって有利にも不利にもならない右判決書の取調べをあえて請求するため弁論再開を申立て裁判所の手数を煩わすまでもないと思料して弁論再開を申立てなかった。
しかし、原判決は思いもかけぬ内容となっていたので、特に右土地明渡請求事件の判決書を資料として添付しご参考に供する次第である。
ただ、右判決がなくとも、原判決が原審までに顕出されている証拠によって本件土地の所有権の帰属について同様の結論を出すべきであった理由については後述する。
二 刑法六条適用について
原判決は、昭和六三年法一〇九号の附則二条の規定があるから本件には刑法六条を適用すべきでない旨判示しているが、右規定があるからこそ、なおのこと刑罰についての経過規定のない本件においては刑法六条を適用すべきものとなるのであって、右判示は、最高裁判所の判例に違反し、仮に最高裁判所の判例に違反していないとしても控訴裁判所たる高等裁判所の判例に違反するものである。
第二 賃料相当損害金について
一 原判決の判示
1 背景事実の判示
原判決は賃料相当損害金を必要経費に算入すべきかどうかを判断するための背景事実を、判決書四丁裏終わりから三行目より七丁表二行目までに述べている。
(一) 右事実中、訂正、補充を要するもの
右判示の大部分はそのとおりであるが、左記の点を訂正ないし補充する必要がある。
(1) 神崎土地所有名義となった日時の誤り
本件土地が神崎土地振興株式会社(以下「神崎土地」という)所有名義となったのは、原判決判示の昭和三二年五月一〇日ではなく、同月七日である(判決書、四丁裏)、登記請求事件の控訴審判決書二丁裏、一の(一)、記録一四〇四丁参照)。
(2) 登記請求事件一、二審判決の結論判示の誤り
判決書五丁表には、登記請求事件の一審裁判所は「仮登記に基づく本登記手続を求める権利を有する旨判示した」とあり、その控訴審裁判所は「本件土地につき千葉が所有権を有する旨認定」とあって、右両裁判所が原告の請求を認めた法的根拠を異にするかのような判示があるが、両裁判所とも一応千葉が所有権を有することを認定している(一審裁判所の判決につき一審記録一四一六丁参照)。
ただ、右訴訟は被告神崎土地と原告との関係では所有権の帰属が訴訟物となっていなくて、本登記手続請求権の存否のみが訴訟物となっていたことは、一審判決書判示の請求の趣旨欄記載(記録一審一四三〇丁)を見れば明らかであり、その意味では、所有権の帰属者が誰れであるかについての説示は傍論で、既判力を有せず、仮登記に基づく本登記請求権を認容した部分のみについて既判力があることは言うまでもない。
(3) 被告人の本件土地の占有開始時期の誤り
判決書五丁裏七行目に「被告人は右訴訟係属中から本件土地を占有しており」と判示され、被告人の本件土地占有が右訴訟係属中から開始されたような記述がなされているが、昭和二九年九月ころ、被告人が嶋田辰五郎(以下「嶋田」という)及び信用組合大阪華銀(以下「華銀」という)の子会社である東亜企業株式会社(以下「東亜企業」又は「東光実業」という)とともに三者で共同して日国工業株式会社(以下「日国工業」という)から本件土地を含む約四四、〇〇〇坪等を共同して買受け、その持分は被告人が一二分の三、嶋田一二分の四、東亜企業一二分の五であり、買受後右不動産は被告人及び嶋田によっていわゆる神崎新地街として造成される一方、一部は売却処分された(登記請求事件一審判決中理由一、2、記録一四二一、一四二〇丁参照)のであるから、被告人は、本件土地を含む日国工業から買受けた全土地につき共有者としての権利を有し、現に、その全土地について造成、売却等の処分に当たっていたのであるから、被告人は、右土地等買受当時から本件土地を占有していたものである。
原判決の記述は、被告人の本件土地の占有権限、占有経緯、状況等ひいて賃料相当損害金の必要経費算入の相当性にも影響を及ぼしかねない点について誤解を招くものである。
(4) 被告人の昭和五八年分までの所得税申告について
判決書六丁裏に「被告人は昭和五八年の所得税確定申告までは、右駐車場からの収入を不動産所得として計上していた」と判示されている。
基本的にはそのとおりの事実であるが、原判決が被告人の駐車場経営を大略「経常的な費用が収入を大きく上回ることが前もって分っているようなときには、その費用は必要な費用とは言えない」旨(原判決九丁裏)、憲法、法律、経済界の実情、税務実務等を全く無視(理由は後述)した判示をしていることに鑑み次の事実を付言しておく。
被告人は昭和五八年までは駐車場経営部分については、収入のみを計上し、その敷地として使用されている本件土地部分についても賃料相当損害金を経費として算入していなかったのである。原判決の収入、経費対比の論理は全くの暴論であるが、被告人が賃料相当損害金を経費に算入しないでその収入金額を即各年分の所得金額として長期間過大申告し、その金額は控訴趣意書記載のとおり合計数億円に達すること、したがって賃料相当損害金を必要経費に算入して租税回避行為を図ったものでないことだけでもあらかじめご認識しておいて戴きたい。
なお、原審弁護人も一部誤解を招くような記述をしているが、被告人は駐車場経営をはじめて以来、その経営をゴルフ神崎(主たる事業目的はゴルフ練習場経営)の関連事業(直接の関連性はないが)として事業所得として申告していた。
もっとも、事業所得としても不動産所得としても、本件の場合所得金額に差違はない。
2 本件賃料相当損害金が令九八条により必要経費にならないとの判示について
原判決は本件賃料相当損害金が所得税法四五条一項七号上必要経費にされない令九八条該当の損害賠償金であるとし、その理由としておおむね次のとおり判示している。
(一) 理由その1
賃料相当損害金は、被告人が、本件土地を不法占有することによって、千葉の所有権を侵害したことに対し支払われるものである。
(二) 同2
被告人と千葉とは、本件土地につき賃貸借契約を結んでいたものではないから、土地賃貸借契約後、それまでの賃料債務が損害金債務になった場合と異なり、不法行為に基づく損害賠償金にほかならない。
(三) 同3
登記請求事件の判決確定後は、本件土地につき千葉が所有権を有することを知っていたことが明らかでありそれにもかかわらず本件土地を占有していたのであるから、右判決確定後は、本件土地に対する千葉の所有権を故意に侵害したものである。
(四) 同4
そうであれば、本件賃料相当損害金は所得税法四五条一項七号、同法施行令九八条により、不動産所得の金額または事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できない。
(五) 同5
この点について、村上弁護人は、本件土地の賃料相当損害金は、売買契約の債務不履行を原因とする損害金と構成することも可能である旨主張するのであるが、関係証拠から認められる被告人と千葉またはその夫との間の紛争経過や、被告人が、千葉またはその夫との間で本件土地を含む土地の売買契約を結んだことを争っていることなどに照らすと、同弁護人主張のような構成が妥当であるかは疑問であり、右賃料相当損害金は、被告人が故意に千葉の土地所有権を侵害したことに基づく損害賠償金であるから、前記法条所定の必要経費に算入することができない損害賠償金に該当する。
(六) 同6
所論は、千葉が請求している賃料相当損害金は、実質的には本件土地の地代であるから、必要経費である旨主張するが、被告人が損害賠償金を支払えば、千葉にとっては、地代収入を得たのと同じ効果があるというだけのことであって、そのことより、右賃料相当損害金が、故意によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金としての性質を失うものではない。
二 原判決中令九八条に関する判示の不当性
原判決の右判示理由の不当性についてはまず、原判決の思考から洩れている基本的理論上の問題から述べ、ついで判示に関して述べる。
1 基本的理論上の不当性
原判決の判示は、右判示以外の基本的理論上到底首肯できるものではない。
その理由は次のとおりである。
(原審において弁護人がこの基本的理論まで論じなかったのは、論ずるまでもなく、本件賃料相当損害金が、令九八条の損害賠償金に当たらないことは明らかであると考えていたからである)
(一) 損害賠償金の定義について
(1) 原価計算基準における損害賠償金の定義
昭和三七年一一月八日付け大蔵省企業会計審議会中間報告として「原価計算基準」が設定されたが、同基準において「損害賠償金」は非原価項目中の「異常な状態を原因とする価値の減少」の例として挙示されている。
(2) 同基準と税法の規定との関連
ところで右原価計算基準は、その前文の「原価計算基準の設定について」と題する文中において、「この基準は、企業会計原則の一環を成し、そのうちとくに原価に関して規定したものである。それゆえ、すべての企業によって尊重されるべきであるとともに、棚卸資産の評価、原価差額の処理など企業の原価計算に関係ある事項について、法令の制定、改廃等が行われる場合にも、この基準が充分に斟酌されることが要望される。」と記されている。
現行所得税法、特に判決の指摘する同法四五条一項七号、令九八条は右原価基準制定後の昭和四〇年に制定されたものであるから、右要望にしたがい、損害賠償金なる用語についても右原価基準の用語にしたがい、同一の内容である筈である。
(3) 企業会計原則と税法の規定との関連性
右企業会計原則は、同二四年七月九日に設定され、その後四回にわたり一部修正されてはいるが、設定時の前文に記載されている。
○ 「企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、・・・以下省略」
○ 「企業会計原則は、将来において、商法、物価統制令等の企業会計に関係ある諸法令が制定改廃される場合において尊重されなければならないものである」
との記述の文意は、税法、商法においても尊重され、その後、法人税法二二条四項が益金及び損金の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるべきものとし、
商法三二条二項に「商業帳簿の作成に関する規定の解釈については公正なる会計慣行を斟酌すべし」と規定したことは、いずれも特段の事由のない限り企業会計原則に準拠して課税所得又は商法上の損益を計算すべきことを明らかにしたものと解されている(税法につき金子宏著、租税法第四版三四頁参照)
なお、所得税法の課税所得の計算についても法人税法と基本的に同様の論理によるべきであることは、忠佐市著、課税所得の概念論、計算論の序文で明らかとされている(原審豊島弁護人控訴趣意書一九、二〇頁参照)
このように企業会計原則は権威のあるものであり、その一環として制定された右原価計算基準も同様の権威を有する。
(4) 税法の用語についての判決例
判決例を見ても
○ 東京地裁昭和三四年二月一一日判決(行集一〇、二、二九七、判例時報一八一、一四)は租税に関する法規が、一般私法において使用されていると同一の用語を使用している場合は、別異に解すべき実質的な理由がない限り同一の意義を有すると解すべきである旨判示し
○ 岡山地裁同三九年一月二八日判決(行集一五、一、一〇一)もある法律分野における法律用語は、他の法律分野においても同一の意味内容を有しているのが原則である旨判示している。
前記原価計算基準は税法と密接な関連性を有すること前述のとおりである。
(5) 結論
以上の事実を総合すると、前記原価計算基準の損害賠償金と右令九八条のそれとは同意義と解され、異常な状態を原因とする価値の減少を招くものであって、原審で原審弁護人が主張していたような交通事故等不測の異常な事態発生を原因として債務が発生するものであることが明らかである。
(二) 原判決の判断は法的安定性を欠き、課税所得計算の安定を害する。
本件賃料相当損害金を必要経費に算入できないとの解釈は法的安定性を欠き、ひいて所得計算の安定性を害する。
(1) 本件賃料相当損害金は本来債務不履行によるものである。
本件土地は前記のとおり、被告人が嶋田らと日国工業から土地約四四、〇〇〇坪等を買受けた時点から、被告人は共有者の一人として占有を続けてきたことが明らかであり、更に前記登記請求事件において、一、二審裁判所が認定した事実及び法律関係の大略は、「日国工業から買収した土地につき、被告人と張との間において、被告人の取分とされた四分の一のうち二分の一即ち全体の八分の一につき売買契約がなされ」(右一審判決一四丁表、一審記録一四一八丁)「本件土地を含む五九筆につき昭和三二年一〇月一〇日付けで千葉名義の所有権移転請求権保全の仮登記がなされ」(同判決一五丁表、同記録一四一七丁)、「右事実関係に照らせば、被告人と張及び千葉との間において、右千葉名義の仮登記にかかる土地をもって、前記売買契約の対象とする土地として特定し、かつこれを千葉に対して譲渡する旨の合意がなされたものと認められる」(同判決一五丁裏、同記録一四一六丁)というのであって、仮に右判決のとおり右土地の特定が右日時になされたとしても、土地の売買契約は成立したが売主が買主ないしその指定する者に引渡しや所有権移転登記をしないという本来は債務不履行の事案である。
(2) 訴訟の相手の選択する請求原因によって必要経費の成否が左右される不当
よって、仮りに千葉が本件土地の単独所有権者であることを前提としても、本件賃料相当額は、千葉において債務不履行による損害金としても請求できる、いわゆる請求権競合の場合である。
前記土地明渡請求事件において、千葉は賃料相当金を不法行為に基づく損害賠償金として請求したが、もし千葉がこれを債務不履行に基づく損害金として請求しておれば、原判決は、これを不法行為に基づく損害賠償金であるとの認定はできない。
現行法上、所有権登記を得ているもの又は土地所有者として賃料相当金を請求するに当たり、その請求権の選択行使が原告の自由に委ねられているのであるから、原判決のとった見解は原告が不法行為に基づく権利を請求原因とすれば、所得税の課税所得の計算上必要経費に算入されず、他方債務不履行に基づく権利を請求原因とすれば、必要経費に算入される(必要経費に算入されない規定はない)という、法的安定性を欠き、所得計算上も極めて不安定な結果を招く結果となり、到底容認できるものではない。
不法行為による請求権以外にも、同時に他の請求権が認められる、いわゆる請求権競合の場合には、原判決のような判断は、法的安定性を欠くとともに具体的妥当性をも欠く不当なものとなること自明である。
このような不当な結果を招く法令を規定したり、解釈が許される筈がない。
したがって、令九八条規定の損害賠償金は、不法行為のみを請求原因とできるものでなくてはならない。
(三) 本件賃料相当損害金は前記令九八条の構成要件を欠く
(1) 業務関連性必要
前記令九八条は、不動産所得等を生ずべき「業務に関連して」他人の権利を侵害したことを構成要件の一つとしている。
したがって、右権利の侵害は、業務に関連して発生するものであることを必要とする。
(2) 被告人の本件土地占有は業務に関連して発生したものではない。
ところが、被告人の本件土地の占有による権利侵害とされているものは、原審で弁護人が強く主張しているとおり被告人の所得等を生ずべき業務に関連して初めて発生したものではない。
本件土地は被告人がゴルフ練習場等の業務開始以前から合法的に占有していたものが、その後の法的見解の相違によって不法占有とされるに至ったものである。
したがって、本件は、右業務に関連して本件土地の占有がなされたものではないことに留意すべきである。
(3) 所得税基本通達等の規定から推認される右令九八条の損害賠償金の性格
前記令九八条が規定する損害賠償金なるものは、所得者が所得を得る経済活動の過程で、自己又はその従業員が他人に損害を与え、損害賠償責任を負った場合の規定であることは、その規定自身及びこれに関する通達等によって次のとおり明らかである。
例えば、
<1> 損害賠償金の必要経費算入の時期に関し、所得税法基本通達三七-二の三が「業務の遂行に関連して他の者に与えた損害につき賠償をする場合において、その年一二月三一日までにその賠償すべき額が確定していないときであっても、同日までにその額として相手方に申し出た金額(相手方に対する申出に代えて第三者に寄託した額を含む)に相当する金額(保険金等により補てんされることが明らかな部分の金額を除く)を当該年分の必要経費に算入したときは、これを認める。<注>損害賠償金を年金として支払う場合には、その年金の額は、これを支払うべき日の属する年分の必要経費に算入する。」旨規定し、
<2> 同通達四五-六が、「使用人の行為に基因する損害賠償金等」と題して「業務を営む者が使用人(業務を営む者の親族でその業務に従事しているもの(以下この項において「家族従業員」という)を含む。以下この項において同じ)の行為に基因する損害賠償金(これに類するもの及びこれらに関連する弁護士の報酬等の費用を含む)を負担した場合には、次によるものとする。
(1) 当該使用人の行為に関し業務を営む者に故意又は重大な過失がある場合には、当該使用人に故意又は重大な過失がないときであっても、当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入しない。
(2) 当該使用人の行為に関し業務を営む者に故意又は重大な過失がない場合には、当該使用人に故意又は重大な過失があったかどうかを問わず、次による。
イ 業務の遂行に関連する行為に基因するものは、当該使用人の従事する業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入する。
ロ 業務の遂行に関連しない行為に基因するものは、家族従業員以外の使用人の行為に関し負担したもので、雇用主としての立場上やむを得ず負担したものについては、当該使用人の従事する業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入し、その他のもの(家族従業員の行為に関し負担したものを含む)については、必要経費に算入しない。」旨規定し
<3> 同通達四五-七が、「損害賠償金に類するもの」と題して、「法第四五条第一項第七号かっこ内に規定する「これに類するもの」には、慰謝料、示談金、見舞金等の名目のいかんを問わず、他人に与えた損害を補てんするために支出する一切の費用が含まれる」旨規定し、
<4> 同通達四五-八が「重大な過失があったかどうかの判定」と題して、「令第九八条(必要経費に算入されない損害賠償金の範囲)に規定する重大な過失があったかどうかは、その者の職業、地位、加害当時の周囲の状況、侵害した権利の内容及び取締法規の有無等の具体的な事情を考慮して、その者が支払うべきであった注意義務の程度を判定し、不注意の程度が著しいかどうかにより判定するものとし、次に掲げるような場合には、特別な事情がない限り、それぞれの行為者に重大な過失があったものとする
(1) 自動車等の運転者が無免許運転、高速度運転、酔払運転、信号無視その他道路交通法第四章第一節(運転者の義務)に定める義務に著しく違反すること又は雇用者が超過積載の指示、整備不良車両の運転の指示その他同章第三節(使用者の義務)に定める義務に著しく違反することにより他人の権利を侵害した場合
(2) 劇薬又は爆発物等を他の薬品又は物品と誤認して販売したことにより他人の権利を侵害した場合」旨規定している
ことからも十分に窺える。
(四) 他の法令の同種用語等からの考察
すなわち、令九八条の「業務に関連して」とか、右通達三七-二の二の規定の「業務の遂行に関連して他の者に与えた損害」というのは民法七一五条の「事業の執行に付き」とか、国家賠償法一条一項の「その職務を行うに付いて」など、同様の規定のおかれている各種法令の用語と類似の概念であり、これまで判例に数多く現われている右字句にかかる事案はすべて突発的に他人の権利を侵害する、不法行為のみの成立が認められるものばかりである。これに「保険金等により補てんされる」という字句などを併わせると、この令九八条、及び右通達だけでも交通事故等の場合のように、業務執行の際の突発的な加害の純然たる不法行為のみが成立する場合の損害賠償の規定であることが分かるし
同通達四五-六は従業員の行為に基因する規定であるから、民法七一五条との関連性が明らかで、弁護士費用も規定しているのであるから、交通事故による加害行為等に関する規定であることが分かる。
また、同通達四五-八は、重大な過失の存否判定基準を定めた規定であるが、その基準も交通事故等の加害行為に関して過失の存否、程度判断に用いられるものであることが認められる。被告人の本件土地の不法占有なるものに重大な過失があるか否かの判定基準とは到底なり得ないものである。
(五) 結論
要するに、被告人の本件土地の占有は、被告人のゴルフ場経営等の事業の業務に関連して発生したものではないから、右令九八条の構成要件中の「所得を生ずべき業務に関連して」との要件を欠くものであり、したがって、本件賃料相当損害金なるものは右令九八条にいう損害賠償金に当たらないことは明らかである。
2 被告人の本件土地占有は故意による不法行為に該当しない
原判決は本趣意書第二の一、2において大略整理したとおり、本件賃料相当損害金は前記令九八条の損害賠償金に当たる旨判示した。
しかし、右判示は、同第二の二の一のとおり、判示の内容を詳細に検討するまでもなく、理論的に失当である。
加えて、かねて千葉が、被告人を訴えていた土地明渡請求事件において、裁判所は別添資料1のとおり、本件土地のみならず、千葉所有名義の全土地並びに被告人の妻巫幸恵名義仮登記土地及び東光実業名義土地の全部(以下「本件土地等共有地」という)が、被告人と張(千葉)の共有である旨認定した判決を言い渡したから、原判決が本件賃料相当損害金は前記令九八条に該当する旨の判決は事実の認定及び法令解釈を誤っていることは明白であるが、右土地明渡請求事件判決は原審の証拠となっていなかったので、右判決がなくとも、原審判決までに取調べられている証拠によって、既に本件土地等、特に本件土地が被告人及び張(千葉)の共有であって、被告人が本件土地等を単独占有していることによって張(千葉)に支払うべき補償金は前記令九八条に言う損害賠償金ではなく、原判決が右損害賠償金である旨判示したのは誤りであることを原判決判示理由の順序(本書面第二、一、2)にしたがって以下に明らかとする。
(一) 登記請求事件の判決書検討によって否定される千葉単独所有
(1) 同訴訟の一審判決の事実認定
同判決は理由欄において、大略次の事実を認定している(二審において訂正後のもの)。
<1> 昭和二九年九月七日巫阿渕、嶋田辰五郎及び東亜企業の三者は共同して日国工業から前記の不動産(土地約四四、〇〇〇坪等)を代金三三〇〇万円で買受けたこと、右の売買契約は買受人として嶋田辰五郎の単独名義でなされたが、右三者間において右の契約における代金の負担及び取得物件に対する権利の割合は、いずれも巫一二分の三、嶋田一二分の四、東亜企業一二分の五とする旨の合意がなされ、かつそれぞれが右比率に見合う代金額の出捐をなしたこと、東亜企業は大阪華銀が前記不動産の買収及び事後の経営に参画するための別働会社として設立した会社であって、右の取引が完了した直後である同年一一月八日にその設立登記がなされたこと、が認められる。(一審記録一四二一丁)
<2> その後前記の買収された不動産は巫及び嶋田によっていわゆる神崎新地街として造成される一方、一部は売却処分により、一部は昭和三一年六月頃右の事業から脱退した嶋田に対し配分されるなどして減少したこと、結局残った土地(本件土地を含む。)一万二一八〇坪四合一勺について昭和三二年五月七日被告神崎土地名義の所有権移転登記がなされたこと、右登記は単なる名義上のものであって何ら実体上の原因に基づかないものであること、被告神崎土地は同年二月二六日巫が自己所有の土地につき会社名義を使用して土地経営をするために設立したものであって、右移転登記にかかる土地につき何らの権利も取得したことがない。(同一四二〇丁)
<3> 巫は昭和二九年九月六日張に対し、前記日国工業所有の土地四万四〇〇〇坪を代金三三〇〇万円で大神証券、嶋田辰五郎、大阪華銀及び巫の四者で共同購入する話がまとまっているけれども自分にはこれを調達する目途がないので、いい話だから一緒に買うことにして自分は、土地の四分の一を貰うから張にはその半分を渡そうと申入れた。そこで張はこれに応じて巫に対し、登記費用及び手数料二二万五〇〇〇円を含めて合計四三五万円を交付した。(同一四一九丁)
右の事実によれば、前記日国工業から買収した土地約四万四〇〇〇坪につき、巫・張間において巫の取分とされた四分の一のうち二分の一即ち全体の八分の一につき売買契約がなされたものと認められる。(同一四一八丁)
<4> 昭和三二年夏頃張は日国工業から購入した土地について被告神崎土地名義に所有権移転登記がなされていることを知り、巫から買い取った自己の権利が害されているとして当時同被告の代表取締役の地位にあった巫に対し、自分にいつ土地をくれるのかはっきりせよとこれを追及した。これに対し巫は、張に対しさし当たり同人の権利の保全のため原告名義の仮登記をつけておく、土地はその内に完全に引渡すこととするが今は被告神崎土地が発足したばかりでもあり事務整理の都合もあるから本登記手続きは一年位待ってほしいと申入れ、張及び同人の妻である原告の承諾のもとに前記の被告神崎土地所有名義の土地のうちから自己が選定した本件土地を含む五九筆合計六九三二坪二合七勺の土地につき同年一〇月一〇日別紙仮登記目録記載のとおり原告名義の所有権移転請求権保全の仮登記手続きをした。(同一四一七丁)
<5> 右の事実関係に照らせば、巫と張及び原告との間において右原告名義の仮登記にかかる土地をもって前記売買契約の対象とする土地として特定しかつこれを張を経て原告に対して譲渡する旨の合意がなされたものと認めるのが相当である。(同一四一六丁)
<6> 右判示後の事実関係部分の判示についてはその控訴審が改めているので記載しない。
(2) 同訴訟の控訴審の事実認定
右控訴審は、判決理由において、前記(1)の一審判決の理由説示までを認め、その後の事実関係を大略次のとおり変更して認定している。
<1> 大阪華銀は、その経営が悪化したこともあって、かねてから日国工業よりの買収地につき自己の出資比率に見合う土地の取得に代え、右出資金とその利息相当額合計約二五〇〇万円を回収する方針に切り替え、巫に対し右金員の支払いを要求していた。(一審記録一四〇〇丁最後の行から一三九九丁最初の四行)
<2> 昭和三四年四月に至り、大阪華銀は控訴人神崎土地、被控訴人張及び巫と相談の結果、前示出資元利金相当額約二五〇〇万円の弁済に代え、被控訴人のため仮登記をした土地のうち本件土地を除く土地及び巫幸恵名義で仮登記をしていた土地の一部の提供を受けて、以上の出資金に関する清算を終えることを合意した(同一三九九丁、一三九八丁)。
以上である。
(3) 右認定事実によって否定される本件物件の千葉単独所有
右事実認定によると、日国工業から買収した土地約四四、〇〇〇坪は、当初被告人、嶋田及び大阪華銀の子会社である東亜企業(東光実業)三者の共有であったが、昭和三一年ころ、右共有関係から嶋田が持分相当の物件の配分を受けて脱退したから、その後は被告人と東亜企業(実質は華銀)との共有であって、華銀は同三四年四月になって、被告人や張らとの話合いにより、幸恵や千葉名義の仮登記の付されていた土地の一部を持分として回収して巫との共有関係から脱退した事実が認められる。
そうだとすると、巫と華銀の共有関係が存続していた同三四年四月よりも以前である三二年一〇月一〇日に、仮に共有者の華銀に無断で被告人が張との間だけで華銀と被告人の共有物を張に分割売却することを契約したとしても少なくとも華銀の持分については他人の権利の売買であるから華銀の承諾を得ない限り、張(千葉)に完全な所有権を得させることは一筆の土地たりとも事実上も法的にも不可能である。
まして、被告人に華銀の持分を売却する意思はなかったし、その意思があったと認めるに足る証拠もない。千葉自身が後記のとおり、巫の単独所有となったとき張はその二分の一の分割請求ができると思っていたと主張しているのであるから、なおさらその時点での張に対する分割はあり得ない。
したがって、同三二年一〇月一〇日に、本件物件を売買契約の目的物として特定できる筈がないことも明らかであり、その後被告人と張との間で別途に、華銀らとの話合いで被告人の持分となった日国工業から買収した土地につき分割協議がなされたとの主張も立証もないのであるから、本件原審弁論終結時も本件土地を含め、同三四年四月の話合いによって始めて被告人の単独持分となった右土地全部が被告人と張(千葉)との共有であり、ひいて本件土地が千葉の単独所有となり得ないものであることは、右登記請求事件の判決によっても明らかである。
(なお、右訴訟は本件土地の所有権の帰属が訴訟物となっていないので所有権の帰属について右判決の既判力が及ばないことは、土地明渡請求事件の一審判決説示のとおりである)
(二) 民事訴訟当事者の主張自体によって否定される千葉単独所有
(1) 登記請求事件における千葉の、本件物件が千葉の単独所有となる時期についての当初の主張は、原審までの証拠においては明らかでない。(しかし、別添資料1土地明渡請求事件判決はその一九丁裏一二行目から二〇丁表二行目までにおいて、千葉が登記請求事件の当初は、被告が将来取得すべき土地につき持分平等等の共有関係にある旨主張していた事実を認定している)
(2) 土地明渡請求事件における原告千葉の主張
千葉主張の全部が原審において証拠として取調べられているのではないが、取調べられた証拠によって認められる千葉の主張は次のとおりである。
<1> 原審検察官請求証拠番号(以下「検」という)1報告書
同報告書中
ア 千葉の訴状によると、その請求原因の二項において大略「張は、日国工業から購入する土地約四四、〇〇〇坪について巫が取得する持分四分の一の半分を購入するため所要金員を出捐した。本件土地等は巫が取得し自己所有となった土地を神崎土地所有名義としていたが、昭和三二年一〇月一〇日、巫は本件土地等を売買の目的物として特定し、千葉に譲渡する合意が成立した」旨主張している(原審記録三七六丁裏、三七七丁表)。
イ 被告(巫)の同六二年二月一七日付準備書面一の記載を見ると、千葉は同六一年一〇月七日付原告準備書面二項2、(1)において「同三二年五月七日当時、嶋田、東亜企業が脱退していたので、(日国工業からの購入土地の残地)は被告巫の単独所有となっていた旨主張している事実が窺われる(同記録四〇五丁裏)。
<2> 原審弁護人請求証拠番号(以下「弁」という)2報告書
同報告書中
ア 千葉の平成四年一〇月一三日付準備書面の冒頭に「昭和二九年九月六日の張寿郷と被告の契約が、被告の取得する持分四分の一の二分の一を譲渡し(債権的関係)、被告が単独所有として土地を取得したときに土地を分割して引渡すとする内容でないとするならば」と記載している(同記録二七二丁裏)ところを見ると、千葉はそれまで、右記述のとおり、「被告が単独所有として土地を取得したときに土地を分割して引渡す契約であった」ということを主位的に主張していたことが明らかである。
イ 千葉の平成四年一一月一七日付準備書面一項によると、「張は、被告の取得する土地が確定すれば分けてもらえると思っていた」と主張し、以下その主張を補充している(同記録二四八丁裏)
<3> 千葉の主張等によって否定される千葉の単独所有
以上を総合すると、張(千葉)は、同三二年五月七日ころには、嶋田のみならず東亜企業(華銀)も脱退していたという間違った事実主張を前提としながら、日国工業からの買収土地について巫の取得する土地が確定したときに、巫と張はその土地を分割するという約束があったという主張を土地明渡請求事件において終始主張していたことが認められる。
しかしながら、東亜企業(華銀)が同三二年五月七日ころまでに嶋田と同様、日国工業から購入した土地についての共同事業から脱退したことを認めるに足る証拠もなく、前記のとおり登記請求事件の控訴審も同三四年四月に至って、華銀が右共同事業から脱退した事実を認めているのであるから、その時期以前に本件土地等が被告人の取得する土地と確定し、その単独所有となっていないことは明らかであり、そうであるならば、原告千葉が主張する被告人の単独所有となったとき土地を分割するという条件はその時期まで成就していなかったことも明らかであるから、千葉の主張する本件土地等につき千葉名義の仮登記を付した同三二年一〇月一〇日の分割協議はあり得なかったことも証拠上明らかである。
(3) 土地明渡請求事件における被告巫の主な主張と原告の反論
<1> 原審検1号報告書中の被告巫の主張
ア 被告の昭和六〇年六月一一日付準備書面で、千葉の仮登記は同三二年一〇月で、当時の華銀の危機に伴う神崎土地の経営にかかる緊急避難事情によるものであると主張(記録三九五丁表)。
イ 被告の同年九月一七日付準備書面で、
○ 日国工業からの購入土地は当所嶋田、東亜企業、巫三者共有なるも同三一年六月嶋田脱退のため、以後、東亜企業、巫が神崎土地名義で共同管理となった(記録三九七丁裏)。
○ 被告人が千葉名義の仮登記をしたことに華銀が納得せず、同三四年四月関係者の協議で約四、五〇〇坪の仮登記を抹消して華銀に渡し、華銀は神崎土地の株式を巫らに渡した(記録三九八丁表)。
と主張
ウ 被告の同六一年七月八日付準備書面で
○ 嶋田の脱退後は、巫と東光実業が経営することになったが、東光実業の負債が多いことが判明したので、神崎土地を設立し、土地の所有名義を同社に移転した(記録四〇一丁表)。
○ 千葉名義の仮登記は華銀倒産に伴う土地保全の必要上巫がつけたものであるから、仮登記後も、張(千葉)はその土地の特定を知らず、権利証も持たず、言及もしなかった(記録四〇一丁表、裏)。
○ 張は千葉の仮登記後も、仮登記土地について所有権の主張を長期間せず、神崎土地の株主や役員の地位について主張するのみであった。
千葉の仮登記を付した土地が真実千葉の所有物なら、張が神崎土地の代表者をしていたとき、その登記手続きがとれたのに、これをしなかった(記録四〇一丁裏)
と主張
<2> 原審弁2号報告書中の被告巫の主張
ア 被告の同六二年二月一七日付準備書面で
○ 千葉は、日国工業から買取った土地は、嶋田、東亜企業、巫の三者共有と言い、その後同三一年に嶋田が脱退したといいながら、東亜の脱退分割に全く触れることなく突如被告の単独所有になったという。
神崎土地は、東亜企業と巫の共同土地を譲り受けたから、神崎土地の株主役員は、東亜企業の親会社の華銀の役員と巫が当たったのである(記録四〇六丁表、裏)。
○ 同三二年五月当時、本件土地等は東亜企業と巫の共有であるから、同三二年一〇月一〇日の千葉名義の仮登記は分割としての効力を生じない(記録四〇七丁表)。
と主張
イ 被告の同六三年五月一七日付準備書面で
○ 嶋田脱退の際は、金銭出捐や業務提供も含め嶋田への配分が協議決定された(記録四〇九丁裏、四一〇丁表)
○ もし東亜企業がその持分を巫に譲渡していたのなら、神崎土地が華銀の債権者である、三和銀行のため本件土地にかかる根抵当権設定登記をして担保提供はしない(記録四一〇丁裏)。
○ 華銀倒産に伴う神崎土地財産保全のためであるから、同社名義の土地全部に巫と張の各妻名義の仮登記を付したのである(右同)
○ 右仮登記設定が専断越権と指弾され、関係者の調整と華銀の整理のため同三四年四月に六者会談が開かれた(右同)。
○ 六者会談において華銀の権利が清算され、残余の土地は神崎土地に寄託したまま、同社の株式を巫と千葉が保有することになり、巫と張との分割協議を具体化する場合となったが、協議未成立のまま今日に至っている(同四一〇丁裏、四一一丁表)。
と主張
ウ 被告の平成四年七月二三日付準備書面で
○ 張と巫が共有物分割の協議及びその登記をしたことはない(記録二六九丁裏)
○ 昭和三四年八月二七日に張は巫を相手として尼崎簡易裁判所に民事調停を申し立てたが、その申立書で張は四三五万円の支出金は共同事業への出資金であったことを自認し、出資分担額に相応する土地又は金員の分与を求めているが、分与を求める土地として、千葉名義の仮登記を付した物件とは無関係の土地一三筆が記載されている(右同)。
○ このことは本件仮登記により共有物の分割や持分譲渡、所有権譲渡がなされたものでないことを張(千葉)において自認するものである(記録二六九丁裏、二七〇丁表)。
○ 張は当時本件土地等は神崎土地の所有とし、千葉名義仮登記も含め、巫が代表者として本件土地を処分したことが会社に対する背任、横領に当たると主張し、同三四年一一月二八日のいわゆる暁の株主総会(判例時報三七九号四三頁参照-弁護人注記)で巫が神崎土地の代表取締役を解任され、張が代表取締役に就任した(同二七〇丁表)。
その株主総会決議不存在確認訴訟で張は右同様の主張をした。
これは右仮登記が張と巫との出資分担による分割でないことを張が自認したものである(同二七〇丁表)。
○ 張は同三五年三月一六日、藤森、蘇との間で覚書を締結し、千葉名義仮登記土地は右三者共有権利とすると確認している。
張の所有で千葉に贈与したものであれば、このような確認はあり得ない(同二七〇丁表、裏)。と主張
エ 被告の平成四年一一月一七日付準備書面で
○ 千葉のための仮登記が、張出捐の義務履行のためか、華銀倒産対策のためかの客観的判断資料は、神崎土地所有の土地の全部に仮登記を付けた事実である。
当時、東光実業(華銀-弁護人注記)は巫よりも多い持分を持っていたから、華銀の倒産がなければ仮登記をつけることはできなかったのである(記録二八三丁裏)。
と主張し
オ 被告の同年一二月一四日付準備書面で
○ 同準備書面一覧表のとおり、神崎土地所有名義土地全部につき、巫、張各妻の仮登記をつけているのは華銀対策であることが明らかである(記録二八八丁裏)
○ 昭和三二年九月二〇日に巫幸恵名義仮登記を付したのは巫の持分保全のためである(右同)
と主張している。
<3> 原告千葉の右<1><2>に対する反論
右<1><2>記載の被告の主張に対し、右昭和三四年四月の六者会談までに張と巫との間で共有者の一人である華銀ないし東光実業を関与せしめないで、張と巫との持分土地を特定したと認定できる原告千葉の反論は右検1号及び弁2号中にはない。
(三) 本件土地の所有権帰属に関する結論
(1) 前記(一)の、登記請求事件の判決書の内容、並びに前記(二)の(2)及び(3)の土地明渡請求事件における千葉及び巫の各主張及び巫の主張に対する千葉の反論を総合すると、千葉の主張する昭和三二年一〇月一〇日に、張ないし千葉が本件土地等につき巫から土地配分特定を受けて本件土地の単独所有者となったとの事実を認定する証拠はなく、反って本件土地等は、現在なお巫と張との共有するところであることが認められている証拠が十分である。
よって、原審は以上の証拠を検討し本件土地を含む、嶋田、華銀脱退後の被告人のみの所有となった土地は被告人と張との共有関係下にあると認定すべきであった。
(2) これは刑事訴訟法上当然のことながら原審判決が自ら判決書一二丁表で述べているように
「裁判所は当事者の主張の有無にかかわらず、その正当と考えるところに従い、法令を解釈適用すべきである」
からである。
(四) 本件賃料相当損害金が不法行為に基づく損害賠償金でないことについて
原判決は、本件賃料相当損害金が不法行為に基づく損害賠償金である理由を判決書七丁表ないし八丁裏に判示し、弁護人は本書面第二、二において、その判示理由に番号を付しておいたので、その順序に従って、原判決判示の不当な理由を述べる。
(1) 理由<1>の本件賃料相当損害金は、被告人が、本件土地を不法占有することによって、千葉の所有権を侵害したことに対して支払われるものである。との点については、前述のとおり本件土地は被告人と張(千葉)との共有であるから、被告人の占有は不法ではなく、千葉の所有権を侵害したものでもないから失当である。
(2) 理由<2>の被告人と千葉とは、賃貸借契約を結んでいたものではないから、右契約終了後、それまでの賃料債務が損害金債務になった場合と異なるとしている。反対解釈すると賃貸借契約の契約終了後の賃料相当損害金であれば不法行為に該当しない趣旨の判示をしている。
しかしながら、賃貸借契約が終了すれば、賃借人として土地を占有していたものは特段の事由のない限り権限なくして土地を占有するものであるから、かつての賃貸人は不法行為による賃料相当の損害を受けたとして占有者に同額の金員支払いを請求できるし、他方、被告人の占有は、千葉の主張によっても昭和三二年一〇月一〇日までは被告人が本件土地を占有する権限を有していたものであるから、従来適法に占有していたものが、何らかの原因によって権限なき占有に変わった点では賃貸借契約があったのが、何らかの原因でなくなった場合と同じである。
よって原判決の判示は失当である。
(3) 理由<3>の被告人は登記請求事件の判決確定後は、本件土地につき千葉が所有権を有することを知っていたにもかかわらず、本件土地を占有していたので、右判決後は、本件土地に対する千葉の所有権を故意に侵害したものである旨判示している。
しかしながら、被告人は登記請求事件は、原告千葉においてことさら所有権の確認を求めておらず、したがって、同事件が確定しても本件土地の所有権が千葉に帰属することが裁判上確定したことにならず争い得るものではあるが、同事件が最高裁判所まで上告して確定している以上、通常の場合は、実質的に右最高裁判所と相反する勝訴判決を得ることは非常に困難で、特別に綿密な事実認定及び極めて正確な法律判断をする裁判所以外の普通の裁判所は被告人敗訴の判決をすることが多いと認識していただけのものである。
このことは、被告人が原審の被告人質問において「この訴訟は土地の所有権が最高裁の判決によって千葉喜代のほうに確認されてしまったからおそらく負けるだろうと覚悟しております。非常に悔しいですけど」(記録四六二丁裏六行目以降)、尼崎の裁判所の事件では「私は所有権の主張を致しました」(同四六三丁表四行目)、「そのほかには、万が一でもまあ真実の事情を裁判所に分かっていただければ、そういう願いも込めております」(同四六四丁裏一〇行目以降)旨供述していることなどから認められる。
被告人はその他の弁護人の質問に対する供述でも、土地明渡請求事件における被告人の法律的な主張についてよく理解しており、被告人が主として争っているのは所有権の帰属であること、登記請求事件の敗訴が最高裁で確定しているから、多分負けるであろうこと、しかし真実の事情を裁判所が理解してくれて勝訴することに望みを持っていることなど、原判決の認定と異なり、登記請求事件の判決確定後も、被告人自身は本件土地が千葉の単独所有でないと思っていたし、また、それが正当であることは土地明渡請求事件一審判決その他前述の証拠のとおりであるから、被告人は本件土地を千葉の単独所有であると認識していた故意がなかったのはもとより、過失は全く認められず、したがって、被告人が故意又は重大な過失によって本件土地に対する千葉の所有権を侵害したものでないことも明白である。
原判決の判示はこの点についても根本的に誤っている。
(4) 理由<4>の右理由<1>ないし<3>によると、本件賃料相当損害金は前記令九八条により所得計算上必要経費に算入できないとの点は、前提を欠き理由なきに帰する。
(5) 理由<5>の原審において村上弁護人が主張した、本件賃料相当損害金は、売買契約の債務不履行を原因とする損害金と構成することも可能である旨主張したのに対し、原審は関係証拠から認められる被告人と張(千葉)との紛争経過や、同人らとの売買契約を結んだことを被告人が争っていることに照らすと、弁護人主張のような構成が妥当であるか疑問であり、本件賃料相当損害金は被告人が故意に千葉の土地所有権を侵害したことに基づく損害賠償金であるから、前記令九八条所定の必要経費に算入できないとの判示も不当である。
原判決は、登記請求事件の確定判決が正しいことを前提に判決をしていることは原判決の七丁表、裏の記載内容によって明らかである。
右事件の確定判決は、本件土地につき被告人と張との間に売買契約が結ばれたことを大前提としており、それに依拠する原判決も右売買契約が結ばれたことを前提として判断しているのであるから、被告人と張との紛争経過や、被告人が売買契約の締結を否定していることは、原判決の右前提事実認定には影響がない筈である。
そうだとすると、村上弁護人が主張したように売買契約の債務不履行と解することができるとの説は当然のことであって、同弁護人の主張が疑問であるとの判示は、原判決が一方で売買契約があったと認定しているのと矛盾する。
本書面第二、2、(二)において弁護人が主張していることとも関連し、仮に不法行為が別途成立するとしても、債務不履行に基づく請求権と請求権競合の関係を生ずる場合は、法的安定性、ひいて課税所得計算安定性の問題からも原判決の判断はなおさら不当となる。
前記のとおり関係証拠を仔細に検討すると、本件土地が今なお被告人と張(千葉)との共有であり、したがって、被告人が故意に千葉の土地所有権を侵害したものではないことも明らかであるから、これがあることをも理由とする原判決のこの点の判示はますます不当となる。
(6) 理由<6>の原判決判示は、要するに本件賃料相当損害金は実質的に本件土地の地代であるというが、そのことにより、右賃料相当損害金が、故意に他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金としての性質を失うものではないというにあって、後段の判示は右理由<2><3>と同旨であってその不当であることは前述のとおりである。
留意すべきことは、本件賃料相当損害金として請求される金員の実質が本件土地の地代であることを原判決もあえて否定していないことである。
三 原判決中、収入より極めて多い支出は必要経費ではないとの判示について
1 原判決の判示する理由
原判決は、本件賃料相当損害金を収入金額との対比によって必要経費とできない理由を大略左記のとおり判示している。
(一) 理由その<1>
ある支出が必要経費とされるためには、予想外の支出や、採算を度外視して支出すべき経営上の必要が認められる費用である場合を除き、通常の場合は、予測される収入より低額に見積もられているものである。
(二) 理由その<2>
特に地代のように、通常は契約に基づいて定められる経常的な費用については、その費用を上回る収入を見込むからこそ支出されるのであって、採算を度外視してまで当該業務を行う必要性が存しないにもかかわらず、支出よりもはるかに低額な収入を得るためのものは、客観的にみて収入を得るために必要な費用であるとは言えない。
(三) 理由その<3>
本件賃料相当損害金は年額八二四八万余円であり、本件対象年分では、駐車場収入の二、六倍ないし三、四倍になるので、駐車場収入を得るために必要な経費とは言えない。
(四) 理由その<4>
よって本件賃料相当損害金はゴルフ練習場および駐車場経費のための必要経費とは言えない。
2 原判決の違法理由
原判決の右判示は、検察官も本件賃料相当損害金が必要経費にならないとする理由として全然主張したこともない論理を理由とするもので、被告人にとって全くの不意打ちである上、企業経営、税務慣行の実態を無視し、法律に規定のない必要経費不該当事由を創設し、もって憲法の保障する租税法律主義に反するとともに、大きな損失を生ずるおそれのある職業を税法上から事実上禁止することになり、職業選択の自由を奪う違法がある。
以下順次説明する。
(一) 不意打ち判決による被告人の防禦権不当侵害
検察官はいまだかつて、このような主張をしたこともなく、裁判所もこの点について被告人質問又は弁護人あるいは検察官に釈明権を行使するなどして、この点について被告人、弁護人に防禦する機会を与えなかった。
控訴審における判決に対する上告理由は特に制限されているのであるから、弁論主義の法制の下では、原審は特に被告人、弁護人の防禦権を侵さないよう深甚の配慮をする義務がある。法令の判断は裁判所の職権であるけれども、課税所得の問題では唯一、最大の争点となっている必要経費該当性の存否について裁判所において全く論議されたこともなく、予想も不可能な論理を突然適用したこの判示は被告人、弁護人の防禦権を違法に冒したものと言わざるを得ない。
(二) 全般的不当性
まず一般論として、企業は本来利益を追求するためのものであるから、通常は収入の方が経費を上回り、通常大部分の企業がこれに該当する。
しかし、原判決も指摘しているように経営上の必要があって、採算を一時度外視しても事業を経営しなければならないことがあり、それは自由主義経済上、私的自治に委ねられている。
収入より支出が上回り、赤字決算が続いているからと言って、その企業の経営が許されないことはなく、収入を得るための支出が収入より多いからといって、その支出が必要経費として認められないという法律もなければ慣行もない。
商法も企業の支出が収入を上回り、損失を生ずることがあることを当然の前提として規定されており、特に同法二九一条の建設利息の配当の規定は、損失を生ずる期間が一定期間以上続くことを前提とした規定である。
所得税法も各種所得の損益通算を認め(同法六九条)ている一方、必要経費に算入しない支出を規定した同法四五条にも、収入より支出が著しく多い場合を規定していない。ある所得について収入より支出が著しく多くて損失が続いても、それだけでは損失を生じている所得の支出を必要経費に算入することを禁じていないことは明らかである。
現に、節税方策の一つとして、銀行からの借入金でマンションを購入してこれを賃貸すると、借入金に対する支払利息とマンションの減価償却額の合計額が、マンションの賃貸収入よりはるかに多く、したがって、不動産所得(或いは事業として行うときは事業所得)の計算上損失が生ずることを当初から予測して、その故にこそこの方法で不動産所得(事業所得)上損失を生じさせ、損益通算規定を利用し、これを他の所得、例えば給与所得、事業所得等から差引いて税の軽減を図ることが一般に堂々と行われているし、節税方法の一つとして公刊物にも掲載されていたことは公知の事実であるが、課税庁はこれを違法な租税回避行為とはせず、その損益通算を認めていた。
支出が収入の何倍以上になったら、その支出を必要経費として認めないというような規定もないから、何倍以上は必要経費として認めないというような勝手な判断は課税所得計算の安定を欠き租税法律主義にも違反する。
被告人の場合は、もともと本件土地等を開発して、その利用を図るというのが当初からの目的であるから、整地した土地を何の利用もせず放置しておく方が不合理なのであって、少しでも収入が得られれば、貸家を建てるなり、駐車場として他人に利用させるのが当然なのである。
駐車場収入は、警察の不法駐車取締りの寛厳にしたがって増減するが、土地を借りて地代を払い、駐車場経営をすることは、地代の方が収入より多いからと言って禁止もできないし、地代を必要経費に算入できないという法律もない。
これが租税回避行為であればともかく、被告人の場合は昭和五八年まで、駐車場収入だけを計上し、賃料相当損害金をも経費に計上せず、累計数億円に及ぶ真実の所得以上の所得申告をしてきたのである。
しかし、登記請求訴訟の敗訴が確定したため、同五九年分から駐車場の収入を預り金に計上して収入金額に算定しなかっただけだったのである。
たまたま、株式売買の多額の利益を申告していなかったことが国税局査察部の知るところとなり検挙されたため、駐車場経営に係る損益について弁護人は収入金は収入として計上する一方、賃料相当損害金は、まさに右収入を得るための個別対応の原価であるから必要経費として算入し、駐車場営業で生ずる損失は他の所得から控除すべきであるという、ごく当然の要求をしているに過ぎない。
もし、原判決のような見解をとれば、地価のバブル時代に高利の借入金で高価で購入した土地をバブル崩壊後転売することも出来ず、利益の得られる商売も出来ないので、細々と駐車場営業をしているところが多数存在するが、その営業が赤字であることはいうまでもない。その場合でも課税庁は、土地購入のための借入金の利息などの支出を必要経費として認めないことが出来る筈がない。
企業が法人の場合は法人税法二二条一項の規定により当然損金の額に算入される。
企業が個人の場合は、所得税法三七条一項により、別段の定めがあるものを除き、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用は必要経費とする旨規定され、「別段の定め」については前記のとおり支出が収入より多いことをもって除外理由としていない。
また、このような制限を設けることは、国民の経済活動で損失を生ずる職業を事実上禁止するものであるから、憲法にも違反する。
(三) 判示理由ごとの当否
次に原判決が本件賃料相当損害金を必要経費とできないとの個々の理由について反論する。
(1) 理由その<1>は一般的には肯認できるところである。
(2) 理由その<2>は前記のとおりの事情で被告人は駐車場営業や貸家をなし、土地の一部はゴルフ練習場の敷地の一部として利用していたのであり、原判決は法令の定めがないばかりか、法令の規定に反し裁判所が不当な拡張解釈をして被告人に不利益な判断をしたもので、到底首肯できるものではない。
(3) 理由その<3>は右<2>の理由のほか、法的安定性、所得計算の安定性を欠く見解で不当である。
(4) 理由その<4>のうち、ゴルフ練習場の敷地となっている部分については、収入と支出の対比が不明であるから、原判決の判示理由をもってしては必要経費に算入できない根拠を欠く。
貸家の敷地についても同様である。
駐車場部分については前述のとおり不当である。
四 原判決のその余の判示の不当性
1(一) 原判決の判示
原判決はその一〇丁裏から一一丁表にかけ、豊島弁護人は前記令九八条は、交通事故等他人に危害を及ぼす危険性のある業務執行の際の加害行為による損害賠償に関する規定である旨主張するが、所得税法及び同法施行令は何らの制限を設けていないからという理由で同弁護人の主張を排斥している。
(二) 右判示の不当
この点については既に弁護人が本書面第二、二、1において詳細論述したとおりであって、法令、通達、論理等から当然弁護人の主張する制限を理解すべきであるから右判示は不当である。
2(一) 原判決の判示
原判決はその一一丁表、裏にかけ、豊島弁護人は、被告人による本件土地の占有が、不動産所得を生ずべき業務に関連してなされたものでない旨主張するが、そうだとすると、業務遂行と関連性のない行為を原因とする支出は、当然、当該業務の必要経費とならず、右主張は、それ自体矛盾しており失当であるとする。
(二) 右判示の不当
右判示は被告人の本件土地の占有が当所合法的に行われていたもので、駐車場経営等に関連して始めて占有を開始したものではないということと、駐車場経営等に本件土地等の使用が不可欠で、密接な関連性があるという問題を混同している。
本件土地の使用は駐車場経営等の業務遂行について必要不可欠のものであることはそれ自体明白であるから、占有開始の当所の行為が駐車場等経営のためではなかったとの理由で、本件土地の使用料に該当する本件賃料相当損害金が必要経費にならないとの論理は不合理極まる。
反って原判決は、本件賃料相当損害金が、不法行為に基づく損害賠償金であると認定する理由の一つとして判決書七丁表の七行目以降に「被告人と千葉とは、本件土地につき賃貸借契約を結んでいたものではないから、土地賃貸借終了後、それまでの賃料債務が損害金債務になった場合と異なる」と挙示しているのである。
右判示は占有開始が合法的であったが、その後無契約状態となったため損害金債務になった場合は、不法行為に当たらないというものであり、その判示自体にも疑問はあるが、その点はさておき、ここでは原判決自ら占有開始時合法であった場合と、その他の場合を区別していることは明らかである。
しかるに、ここでは本件土地の占有が、業務に関連してなされたものでないとすれば、結論として必要経費にならないとの判示をしている。原判決こそ矛盾している。
重複するが、本件賃料相当損害金は被告人の駐車場経営等の業務の原価を構成する必要不可欠のものである。
本件賃料相当損害金は実質地代であり、地代等賃借料はその土地を利用する事業にとって原価を構成することは控訴審でも力説しておいたが、念のため東京、大阪各証券取引所の一部に上場されている三菱地所株式会社が証券取引所に提出している直近の有価証券報告書の必要箇所を抄本とし、別紙資料3として末尾に添付する。
右報告書の三四頁の「土地建物賃貸費用明細書」には、不動産賃借料が計上されているところ、三三頁の損益計算書によると、右土地建物賃貸費用は「営業原価」とされている。なお販売費及び一般管理費は別途計上されている。
(なお、同時に大阪証券取引書において閲覧した三井不動産株式会社及び東急不動産株式会社の各報告書にも金額は異なるが同様の経理処理をしていた。)
したがって、駐車場収入とその敷地の地代との関係は、所得税法三七条に規定する原価であるとの弁護人の主張が当然のことではあるが実証されている。
ゴルフ練習場についても、収入と敷地の地代は個別に対応するから原価であることは言うまでもない。貸家収入の場合についても同様である。
3(一) 原判決の判示
原判決は、その一二丁表四行目以降において、大略
<1> 原審においても、本件賃料相当損害金が、不法占有を理由とする損害賠償金であるのか、実質的な地代であるのかということは争点となっていたことが認められるので検察官は当審において新たな事実を主張したものではない。
<2> 被告人が 本件土地は千葉が所有者とされており、それを争う余地はないことを知っていながら本件土地を占有していたことは原審の当初から被告人において積極的に自認していた。
<3> 弁護人においてもそれを前提として弁護活動をしていた旨判示した。
(二) 右判示の不当
右<1>点については一審記録中の検察官の論告要旨(一審記録二二二丁以下)及び弁護人の弁論要旨(同二八丁以下)にも、原審で争われることになった不法占有を理由とする損害賠償金であるから令九八条により必要経費に算入できない旨の検察官の主張はなく、実質的な地代であるかどうかは若干問題とされたものの、それは原価であるかどうか、したがって債務の確定を必要としないものであるかどうかが争点となったもので、検察官が不法占拠問題としても、それは本件賃料相当損害金が原価性を持つかどうかに関連して述べているだけであることが明らかであり、原判決の判示は誤っている。
右<2>点については、一審第三回公判期日における被告人質問での被告人の供述は結局「登記請求事件の判決は、非常に不服である。千葉の虚言で敗訴したと思っているが、最高裁で確定しているので、弁護士からも難しい事件と言われているが内容に不満なので弁護士に依頼して抵抗している」と、いうことに帰す。
要するに、登記請求事件で上告審で敗訴したから、土地明渡請求事件で勝つことは非常に困難だと聞いているが、登記請求事件の判決は間違っていると思っているので被告人としては納得できないから争っているというのであって、原審被告人質問の際の供述(前記第二、二、2、(四)、(3))と同様である。
被告人は争う余地がないとは思っていなかったのであるから、この点の判示も不当である。
右<3>点については、なるほど弁護人は現在の訴訟の実務が、先行した登記請求事件において、傍論とは言え本件土地の所有権が千葉にあると認定された以上、同一物件に関する所有権の帰属をその後の土地明渡請求事件で覆すことはほとんど不可能であるという認識に基づいて弁護活動をした。
しかし、それは近時有力となった訴訟物ないし、争点効に関する新訴訟物理論に基づく下級審の民事判決が多発しているからであった。
そのため、一審弁護人は、その弁論要旨(一審記録三〇丁表一一行目以下)において特に(土地所有権は訴訟物にならなかったが、現在の訴訟物理論上、今更土地所有権を訴訟物として提訴しても訴えが却下されるであろうし、却下されず実体審理を受けても被告人が敗訴することは当然である)と論じているのであって、一審弁護人も無条件に被告人が土地明渡請求事件において争う余地がないと思って弁護活動をしたものではない。原判決のこの点の判示も失当である。
当事者の主張に拘束されないと判示した原審が、一方で弁護人の主要な主張を排斥しておきながら、他方で弁護人の主張を援用するのは一貫性を欠く。
4(一) 原判決の判示
原判決は、その一二丁裏一二行目以降において大略、駐車場収入および賃料相当損害金も含めて被告人の所得税額を計算すべきであるのに、本件では右金額が具体的に認定できず、正当所得税額、ひいてほ脱税額も算定できないから、本件公訴事実については有罪の判決ができない旨の弁護人の主張については、
<1> 駐車場収入を預り金勘定として処理するのは相当でなく、被告人の所得税額は所論指摘のとおり駐車場収入も含めて総所得金額を算定したうえで計算すべきである
<2> 本件土地の賃料相当損害金については前述のとおり必要経費に算入すべきではなく
<3> 本件においては被告人の所得金額が確定申告書に記載した所得金額よりも少額であることを疑う余地は全く存しないから、駐車場収入を関係せしめなくとも被告人に何の不利益も与えないので弁護人の主張は採用できない
旨判示した。
(二) 右判示の検討
右判示中右<1>の判示は正当である。
右<2>の判示が不当であることは前述のとおりである。
右<3>の判示は、賃料相当損害金を必要経費に算入すべきでない場合にはじめて通用する論理であって、賃料相当損害金を必要経費に算入すべき場合には、原判決も指摘しているとおり、駐車場収入よりも賃料相当損害金が多いのであるから、駐車場経営の収支は赤字となるので、この赤字を損益通算すれば被告人の所得金額は確定申告書に記載した金額より減少すること、したがって、それが被告人の利益になることが明らかであるから、原判決の判示の不当は明らかである。
なお、判示は駐車場用地のみについて説示しているが、ゴルフ練習場内における千葉名義土地についても同様であり、前記のとおり被告人と張(千葉)共有土地について被告人が単独でゴルフ練習場用地、駐車場用地、貸家用地(以下「本件全用地」という)として占有使用してきたことに伴う補償金を支払う必要があるので、その場合はその収支を計算し、従来の被告人の申告所得金額と通算すると、被告人の所得金額が確定申告書記載の所得金額より減少し、ひいてほ脱税額も減少することは明らかであるから、本件公訴にかかる被告人のほ脱税額の立証はないことになり、無罪の判決をすべきこととなる。
五 被告人が千葉に支払うべき金員を各年分の必要経費に算入することの妥当性
1 被告人は土地明渡請求事件判決の趣旨に従い、被告人が本件全用地として使用している張(千葉)との共有土地については、合理的に推認される金員を補償金その他の名称をもって支払う債務を負担しているというべきであり、右金員は右各収入を得るための原価であるから、費用収益対応の原則上、各収入の必要経費として毎年相当額を計上することが所得税法三七条及び四七条の関連通達によって認められている。
通達の詳細については、原審において豊島弁護人の提出した控訴趣意書の二六頁ないし三九頁に記載しているが、ここでは、昭和六一年版国税庁直税部長門田実監修の所得税基本通達逐条解説(引用の通達及び解説は、同年以外のも同様である)によって特に関係の深い通達及び国税庁幹部の解説を引用する。
(一) 所得税基本通達三七-一とその解説
(売上原価等の費用の範囲)
通達 37-1 法第37条1項に規定する「売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」は、別段の定めのあるものを除き、その年において債務の確定しているものに限るものとする。
解説 この取扱いは、売上原価その他の直接費用についても、その費用を支払うべき債務がその年中において確定していることを要するという債務確定主義の適用があるという原則的な考え方を明らかにしたものである。
したがって、別段の定め(基通36・37共-1、36・37共-4の2、47-18等)があるものについては、それにより取り扱われることになる。
(二) 同通達三六、三七共-4の2とその解説
(工事収入又は工事原価の額が確定していない場合)
通達 36・37共-4の2 建設業者等が建設工事等を完成して引渡した場合には、その工事収入又は工事原価の額が確定していないときにおいても、その引渡しの日の属する年の12月31日の現況により、その金額を適正に見積って計上するものとする。この場合において、その後確定した工事収入又は工事原価の額が見積額と異なるときは、その差額は、その確定した日の属する年分の総収入金額又は必要経費に算入する。
解説 たな卸資産については引渡基準によって収入金額を計上することとしている(基通36-8(1))ことから、請負工事収入についても工事が完成して相手に引渡した時に収入金額とすべきものであることを明らかにしたものであり、工事原価については、購入代価が確定していない場合のたな卸資産の取得価額の調整の取扱い(基通47-18)と同様に考えるものである。
(三)(1) 通達四七-一八とその解説
(翌年以後において購入代価が確定した場合の調整)
通達 47-18 令第108条第1項第1号に掲げるたな卸資産でその購入した日の属する年においてその代価が確定していないものについては、その見積額によりその取得価額を計算するものとする。この場合において、その翌年以後の年において確定した代価の額がその見積額と異なることとなったときは、その差額は、その確定した日の属する年分の事業所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。ただし、その差額が、多額な場合には、その差額のうち、当該年分に繰越されたたな卸資産に対応する部分は、当該年に取得したたな卸資産の取得価額に加算又は減算し、その他の部分は当該年分の必要経費または総収入金額に算入する。
解説 購入したたな卸資産の代価がその年の年末までに確定していないときは、基通37-1の債務確定の点で見積額によって原価を計算できるものかどうかについては、必ずしも明確ではないが、その見積額が合理的なものであることを前提とすれば原価算入を否認する必要はないと考えられる。
この取扱いは、この原価算入を認められることを明らかにするとともに、後日確定した代価との差額については、確定年分で調整することとしたものである。
(2) 右通達及び解説に対する弁護人の見解
本通達は、たな卸資産で代価が確定していないものについては、見積額で計算してよいということと、後日正確な金額が判明した時点で清算処理をすべきことを指示しているが、特に注目すべきことは、その解説において
「購入したたな卸資産の代価がその年の年末までに確定していないときは、基本通達37-1の債務確定の点で見積額によって原価を計算できるものかどうかについては、必ずしも明確ではないが、その見積額が合理的なものであることを前提とすれば原価算入を否認する必要はないと考えられる。
この取扱いは、この原価算入を認められることを明らかにする」
旨述べている点であって、収入、経費の計上時期が、債務確定主義によるものと一応定められているものの、その概念の内容についての解釈が多様であり、個々に発生するあらゆる事象に一律に適用できる基準を定めることが不可能である現実を踏まえて、支払債務が確定していると認められない場合でも、その金額の見積が合理的なものであれば、原価算入を否定することは妥当でないと判断していることである。
仮に本件賃料相当損害金債務が確定していないと判断される場合には、その合理的見積は十分可能であるから、その場合は、本通達は、三七-一、及び三七-二に言う「別段の定め」に該当するから本通達を優先適用ないし準用して毎年分の本件賃料相当損害金を当該年分の必要経費に算入すべきことになる。
2 張(千葉)に支払うべき右金員は合理的に推認される金員を計上すべきであるが、本件対象年分については課税庁から更正処分を受け、被告人の不服申立により現在大阪不服審判所に係属中であるから、その年分については将来不服審判所か、裁判所において最終的に決定される金額に従って処理すればよいから、何ら問題はない。
3(一) 検討を要するのは本件対象年分以降の年分であって、被告人が張(千葉)に支払う金額として推認し、必要経費として計上する金額が課税庁の推認する金額以下のものであれば、課税庁は更正処分をしないから、課税庁と被告人間に争いは生じない。
ただ後日、被告人と張(千葉)との間の裁判等で千葉に支払う金額が右被告人の推認金額より多額であることが確定した場合は、被告人は国税通則法二三条の更正の請求により、右差額分の所得を減額することを課税庁に請求できるが、その請求期限は同条一項の規定により、法定申告期限から一年以内に限られるので、事実上更正の請求はできず、被告人が課税庁との関係では泣寝入りをするほかはない。同条二項一号の規定はこの場合適用されないものと思料される。
国に損害は生じない。
(二) 反対に被告人の右推認金額より課税庁の推認金額が少ない場合には、被告人の申告所得金額が過少であるとして、課税庁が被告人に対し更正処分をするであろうから、その場合は最終的には裁判所で問題が解決されるほか、国税通則法七一条の規定があるから、この場合も国に損害は生じない。
4 したがって、被告人が張(千葉)に支払うべき金員を各年分の必要経費に算入することによって国の徴税権になんらの損害を与えることもなく、被告人も会計原則、所得税法にしたがった経理処理が出来るのである。
六 原判決中賃料相当損害金に関する上告理由
1 本件土地を含め、被告人が本件全用地として占有使用している千葉所有名義及び幸恵仮登記名義土地は被告人と張(千葉)との持ち分二分の一づつの共有であるので、本件全用地を被告人が単独で使用しても、それは被告人が自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものであるから被告人の本件土地の占有が故意の不法行為であり、本件賃料相当損害金はその不法行為に基づくものである旨の原判決の判示は、昭和四一年五月一九日最高裁判所判決(民集二〇巻五号九四七頁)の判例に違反する。
2 令九八条の損害賠償金は法理及び文理上も、また、原価計算基準、企業会計原則と税法規定との関係等、あるいは所得税基本通達との関係その他からも、当然業務に関連して突発的な不法行為により発生する損害賠償金のみであることは明らかであり、原判決もその八丁表、裏において、村上弁護人の売買契約の債務不履行を原因とする損害金と構成することができるとの主張が妥当であるか疑問であるとしている(妥当でないと断定していない)。
しかるに、あえて、不法占有による不法行為に基づく損害賠償金である旨認定したのは、疑わしきは納税者の利益に解すべきであると判示した昭和四一年三月一五日東京高裁判決(行集一七巻三号二七九頁)の判例に違反する。
また、憲法第二九条第一項は「財産権は、これを侵してはならない」と財産権不可侵を宣言しており、それは「所得なければ課税なし」との税法上の鉄則ともなっている。そして所得税法もこれをうけて、事業所得の金額や不動産所得の金額は、それらの所得にかかる総収入金額から、必要経費を控除した金額であり、(所得税法第二六条第二項、第二七条第二項)そしてそれらの所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、それらの総収入金額を得るために直接要した費用の額及びこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額であるとして所得税は、純所得に対して課することを原則とする旨定めている訳である。
本来必要経費たるべきものを、必要経費から除外することは、右の「所得なければ課税なし」の鉄則に反し、ひいては、財産権不可侵の憲法に反することになる。されば、必要経費たるべきものを、必要経費から除外するには、それに足る理由がなければならず、それなくしての除外は、違憲のそしりを免れ得ないことになる。
ところで、令九八条は、業務に関連して故意又は重過失によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金を必要経費から除外することとしている。
そして、右規定は、故意又は重大な過失による損害賠償金を必要経費に算入することは、不法行為に伴う民事的制裁制度の持つ意味を没却することになるのでこれを必要経費から除外するためには設けられたものであると解されている。
所得税法は、所得税の賦課を目的とする行政法規であって、民事的制裁一般は元来その法領域外である。
同法がなし得るのは、同法の目的に適う範囲内に限られるべきこと理の当然であろう。そうすると、それは結局、不法行為による損害賠償金によって、新しい経費が増加し、それだけ所得税を免れる結果となる場合に限られるべくこの限界を越えて不法行為を理由に必要経費算入を除外するときは違憲となろう。
したがって、もともと支払わねばならない経費が、たまたま、不法行為による損害賠償金という形になったような場合、例えば、土地を賃借して事業の用に供していた者が、何らかの事情で契約を解除されたが、なお土地の使用を継続していて、従前の地代と同額の損害金を支払った場合、たとえそれが故意による不法行為に該当するとしても、それによって経費が増加した訳ではなく、それを必要経費に算入しても何ら所得税を免れたことにならず、唯名目が、地代から賠償金に変わったにすぎないのであるから、このような場合には、たとえ不法行為による損害賠償金名目であっても、必要経費から除外されてはならない。
本件地代相当損害金は、千葉から土地の不法占有に対する損害賠償金として請求されていることは、その訴状自体よりして明らかであるのに、控訴審の中途に至るまで、令九八条の規定については、税務当局にも、検察官にも、そして裁判所にも全く度外視されてきた事実が、そもそも本件地代相当損害金は、令九八条の必要経費不算入規定に該当せず、必要経費に算入さるべきものであることを、何人にも極めて自然に承認させるものであることを如実に示している。本件地代相当損害金を必要経費から除外することは誤りである。
被告人の本件土地占有の経緯は前述のとおりであるから、仮に本件賃料相当損害金が、故意による不法行為の損害賠償金にも該当するとしても、必要経費に算入さるべきものでありこれを必要経費から除外することは、所得のないところに課税するもので財産権を侵す結果となり、憲法第二九条第一項に反することになる。
原判決は、本件賃料相当損害金を、令第九八条の定める不法行為による損害賠償金に該当するとしたが、右法令が本件地代相当損害金の如きをも含めた規定であるとするならば同法はその限りにおいて憲法第一項の規定に反するものであり、原判決はこの違憲の法令を適用した違法がある。若しまた、右法令は本件の如き場合を含んでいないとするならば、原判決は、同法令の解釈を誤り、ひいて憲法に反する結果をもたらしたものである。
また、収入より著しく多い支出は所得計算上必要経費に認められない旨の判示は、法律に規定がないのに、ほしいままに必要経費に算入されない支出を創設したもので、憲法八四条の租税法律主義及び同二二条一項の職業選択の自由を侵すものであるとともに、租税法の規定はみだりに拡張適用すべきものではない旨判示した昭和四八年一一月一六日最高裁判所の判決(民集二七巻一〇号一三三三頁)の判例及び課税要件事実の認定は不当に私的自治を侵すものであってはならない。殊に他の合理的な経済目的から合法的になされた私法上の行為まで・・・拠るべき規定なくしてこれを否認することは許されない旨私的自治に関して判示した昭和三九年九月二四日大阪高等裁判所の判決(判例時報三九二号二九三頁)の判例にも違反する。
また、本件賃料相当損害金を必要経費に算入するのが当然であり、これを算入すれば、原審認定の各年分の所得金額は存在し得ないことが明らかであるのに、あえてこれに反する原判決の判示は、昭和三八年一二月一二日の最高裁判所の判決(刑集一七巻一二号二四六〇頁)の判例に違反する。
3 仮に前記各憲法、判例に違反しないとしても、原判決は前記のとおり原判決に言う賃料相当損害金は、被告人が張(千葉)との共有物を単独占有利用していることに伴う補償金的性格を持つものであって、不法行為に基づく債務の性格はないから令九八条に規定する損害賠償金ではないこと、右補償金的債務の実質は地代であり(一審判決は賃料相当損害金としてもこれを認め、原判決も前記のとおりこの点は否定していない)、実質地代である右債務は所得を得るための原価であるから、債務が確定していなくとも見積り計算すべきものであり、原審段階でも少なくとも駐車場経営、ゴルフ練習場経営上被告人が占有していた本件土地についての補償金的債務はこれを必要経費に算入すべきであり、これを算入すると被告人の本件各年分の雑所得以外の真実の所得金額は、その各確定申告にかかる同所得額よりも減少し、ひいて検察官及び裁判所認定の総所得金額より減少することは明らかであるのに、右債務を必要経費に算入すべきでないとした点に判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認及び法令の違反があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
なお、原審において主任弁護人が主張していたとおり、刑事判決は、それが確定されると再審事由のない限り、後日確定した刑事判決の誤りが判明しても被告人を救済する途はないのであるから、特に慎重な審理を要するものと思料され、被告人、弁護人ともこれを強く要望するものである。
第三 刑法六条適用遺脱について
原判決は、本件事犯につき刑法六条を適用すべきである旨の弁護人の主張に対して、税法及び刑法の解釈、適用を誤り、ひいて憲法三一条、八四条及び最高裁判所の判例に違反している。仮に然らずとするも原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある。
一 原判決の判示
原判決は昭和六三年法律一〇九号による所得税額に変更を来たす改正があったのに、同法律には所得税について罰則の経過規定がないから、本件事犯につき刑法六条を適用すべきである旨の弁護人の主張に対し、原判決二項において次のとおり判示した。
「改正法によれば、本件各犯行のほ脱税額が、犯行当時の所得税法によるほ脱税額よりも減少することは、所論のとおりであるが、改正法の附則二条によれば、改正法により改正後の所得税法の規定は、昭和六四年(平成元年)分以後の所得税について適用し、昭和六三年分以前の所得税については、なお従前の例によるとされており、また、改正法により株式等の譲渡所得等の課税について設けられた租税特別措置法三七条の一〇(株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税の特例)および三七条の一一(上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税)の規定も、昭和六四年(平成元年)四月一日以後の取引に関してのものであるから、本件各犯行年分の所得税額の算定は、改正法による改正前の所得税法によることになり、本件では、所得税法二三八条二項の適用において、所論のいう刑の変更の問題は生じないのであって、原判決に所論のいうような法令適用の誤りはない。」
二 原判決の不当性
しかし、同六三年法律一〇九号による改正については、いわゆる罰則の経過規定を欠くから、原審の右理由説示は是認できない。
以下順次説明する。
1 昭和六三年法律一〇九号(以下「法一〇九号」という)の所得税額に及ぼす影響
右法一〇九号は
(一) (所得税法の一部改正)の部において
その第一条で
所得税法第九条第一項第一一号(有価証券の譲渡による所得関係規定)を削り
同法八九条第一項の表(税率表)を改めた(従来の五〇〇〇万円超の所得に対する最高税率六〇パーセントとあるのを、二〇〇〇万円超の所得に対する同税率五〇パーセントとするなど税率を下げた)。
その他の改正部分は省略
(二) (租税特別措置法の一部改正)の部において
同法三七条の一〇及び同一一を改正したが、その大要は、これまで原則非課税だった上場株式等の売却益に原則として課税することとなるが、その課税方法や課税額は、特別の場合を除き(被告人の場合は特別の場合に当たるものはない)納税者が、源泉分離課税制度と申告分離課税制度を自由に選択することができ、源泉分離課税制度によることを証券会社に届出ておくと、現物株式を譲渡したときは、売却代金の一パーセント、転換社債を譲渡したときは売却代金の〇、五パーセントの各所得税、信用取引により利益を生じたときは、その利益の二〇パーセントの所得税を証券会社が源泉徴収することにより、納税者の納税義務は終了することになり、一方、申告分離課税制度をとりたい納税者は、確定申告をする際株式売買の利益に二〇パーセントの税率をかけたものを申告すればよく、他の所得と合算する必要がなくなった。
株式等売買で利益を生じているときは源泉分離課税制度を選択する方が個人納税者に有利なので、個人の株式等取引の場合は、ほとんどが源泉分離課税制度による旨の届出をしている(被告人もその届出をしている)ので、給与所得者と同じように否応もなく右所得税を源泉徴収され、脱税の余地はない。
(三) したがって、法一〇九号の改正前、株式等取引によって得た利益を雑所得として他の所得と総合課税されていた多額納税者の納税額は、法一〇九号の適用を受ける平成元年四月一日以降は従前に比較して大巾に低下するとともに、税率変更により、平成元年以降の総所得金額に対する税額も著しく減少することとなった。
2 税額の改正は刑法六条にいう「刑の変更」に当たる。
所得税のほ脱税額は、所得税法二三八条二項により罰金の上限となる旨規定され、罰金額算定の基礎となるものであるから、税額の改正も刑の変更にあたることは左のとおり確立した判例、学説である。
<1> 大阪高等裁判所昭和二五年三月一八日判決(高裁刑特報一〇号四八頁)
証明器具の税率が犯罪時の一〇〇分の五〇から、裁判時までに一〇〇分の三〇に改められた物品税法違反事件につき「刑法第六条は一般的に犯罪後の法律によって刑の変更のあったときは軽きものを適用すべき旨命じており右税率が課税標準額の百分の五〇から百分の三〇に引下げられた以上、一応右法上にいわゆる刑の変更のあった場合ともいえる筋合がある」旨の判示部分がある。
<2> 大審院昭和七年四月一日判決(大審刑集一一巻三一八頁)
織物消費税の税率が昭和六年法四九号で、従来の織物価格の一〇〇分の一〇から一〇〇分の九に改正せられ、犯罪が改正前に行われ、裁判が右法律による改正後になされた事犯に関し、原審が「犯罪後の法律に因り刑法の変更ありたる場合である」旨判示したのに対し、大審院判決は右判示そのものはこれを認めている。
<3> 参考学説
注釈刑法総則(1)三二頁
法律による刑の変更は直接的か間接的かを問わない。
罰金額算定の基礎となる税額の改正も刑の変更である。
旨述べられている。
3 罰則についての経過規定の必要性
刑が軽く変更された場合、犯行時の重い刑罰を適用するためにはいわゆる罰則に関する経過規定を要する。
これも判例、通説の確定しているところである。
(一) 判例
(1) 最高裁判所昭和三二年一一月二七日判決(集一一巻一二号三一三頁)は「刑法六条は犯罪後の法律により刑の変更がなされた場合に適用のある規定であって、本件の如く右地方税法一五一条三項の如き規定を設け、特に、従前の行為に関する罰則の適用については、なお、従前の例によるものとした場合には、従前の行為に関する限り刑罰規定については何らの変更を見ないのであるから、刑法六条はその適用の余地がないものといわなければならない」旨判示している。裏返すと、いわゆる罰則の経過規定がないと刑法六条を適用しなければならないことを宣しているのである。
(2) 前記大阪高等裁判所の判決は「刑法第六条は一般的に犯罪後の法律によって刑の変更のあったときは軽きものを適用すべき旨命じており右税率が課税標準額の百分の五〇から百分の三〇に引下げられた以上、一応右法条にいわゆる刑の変更のあった場合ともいえる筋合があるが右改正法附則第二項には「この法律施行前に課した若くは課すべきであった物品税についてはなお従前の例による」旨の規定があり、また同第二一項においては「この法律による他の法律の改正前になしたる行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による」と規定している結果、前記刑法第六条の規定は自らその適用の余地なきに至ったものと解するのが相当である旨判示している。
(二) 参考学説
前記注釈刑法三三頁に同旨の記載がある。
4 刑の比照の必要性
刑法第六条の適用があるのに新旧両法につき刑の比照をせず、重いものを適用した判決は、刑事訴訟法第四一一条第一号により破棄を免れないとするのが最高裁判所の判例である(最高裁判所昭和二六年七月二〇日判決、刑集五巻八号一六〇四頁)
5 昭和七年四月一日の大審院判例(大審院刑事判例集一一巻一三号三一八頁)について
同判決によると、織物消費税法違反被告事件に関する判決要旨として
「昭和六年法律第四九号附則ニ基キ改正前ノ税率ニ依リ織物消費税ヲ基礎トシテ罰金額ヲ算定スヘキモノニシテ刑法第六条ヲ適用スヘキモノニ非ス」
なる要旨が掲げられている。
そして右判例集には参照法令として右昭和六年法律第四九号附則二項が抄記されているところ、それには「左ニ掲クル織物又ハ之ヲ以テ製造シタル物品ニ付テハ仍従前ノ例ニ依ル
一 本法施行前消費税ヲ課スヘカリシモノ(以下略ス)」
旨抄記されている。
右附則二号によると、従前の例によるのは「本法施行前に消費税を課すべかりし織物又は之をもって製造したる物品」についてであると解される。
そうだとすると、改正前の規定が適用されるのは、広く織物などの物品に関するすべての規定、すなわち罰則も含むものであって、織物消費税のみではないことになるから、刑法六条を適用すべき場合に当たらないのは当然ということになる。
6 法一〇九号附則には所得税関係の罰則についての経過規定がないことについて
法一〇九号には、前記1のとおり所得税関係の主な改正として課税所得に対する税率の変更及び有価証券の譲渡所得についての根本的改正が規定され、納税額が同六四年分以降著しく減少し、ひいて罰則に変更があったのにその附則には罰則についての経過規定がない。
法一〇九号の規定を検討すると
(一) 法一〇九号の附則二条は
(所得税法の一部改正に伴う経過措置の原則)の見出しの下に
「この附則に別段の定めがあるものを除き、第一条の規定による改正後の所得税法(以下「新所得税法」という。)の規定は、昭和六四年分以後の所得税について適用し、昭和六三年分以前の所得税については、なお従前の例による。」
というものであって、右改正本文第一条には税率の変更等税額を減少させる改正規定が規定されているが、「別段の定めがあるものを除く」旨規定されているところ
(二) 同附則三条は
(非課税所得に関する経過措置)の見出しの下に
「新所得税法第九条第一項第一一号から第一七号まで及び第二項の規定は、昭和六四年四月一日以後に行われる同条第一項第一一号に掲げるオープン型の証券投資信託の収益の分配、同項第一二号に掲げる給付、同項第一三号に掲げる年金若しくは金品の交付、同項第一四号に掲げる金品の給付、同項第一五号に掲げるものの相続、遺贈若しくは贈与、同項第一六号に掲げる保険金及び損害賠償金の支払い若しくは同項第一七号に掲げる金銭、物品その他の財産上の利益の所得に係る同項第一一号から第一七号までに掲げる所得又は同条第二項各号に掲げる不足額について適用し、同年三月三一日以前に行われた第一条の規定による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)第九条第一項第一一号に規定する有価証券の譲渡、同項第一三号に規定する証券投資信託の終了若しくは証券投資信託の一部の解約、同項第一四号に規定する法人の資本若しくは出資の減少、株式の償却若しくはその法人からの退社若しくは脱退、同項第一五号に規定する内国法人の解散若しくは同項第一六号に規定する内国法人の合併に係る同項第一一号若しくは第一三号から第一六号までに掲げる所得又は同条第二項第三号から第七号までに掲げる不足額については、なお従前の例による。」
というものであって、
(三) これを有価証券の譲渡について要約すると「昭和六四年(平成元年)三月三一日以前に行われた第一条の規定による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という)第九条第一項第一一号に規定する有価証券の譲渡に係る同号に掲げる所得・・・については、なお従前の例による」旨規定され、右附則三条は右附則二条に言う「別段の定め」に当たるから、旧所得税法九条一項一一号の規定については附則三条が適用されると解される。
(四) 右のとおり法一〇九号附則三条により、本件事犯対象年度の所得(附則三条に挙示された諸規定はいずれも非課税所得に関するものであるから、所得税とせず、所得と規定されたものと思料する)については従前の例によるのであるから、改正前の所得算定規定が適用され、高額の所得ひいて高額の所得税が課税される。
(五) 同附則には右のとおり所得税ないし所得についての経過規定はあるが、いわゆる罰則についての経過規定はない。
7 税法において、税額の変更を伴う改正があった場合の罰則の経過規定
直接税中所得税について弁護人が調査したところでは、資料が不十分なので確定的ではないが、罰則の経過規定については区々で、罰則そのものに改正がなく税額の変更のみの改正の場合と判断されるのに、罰則についての経過規定があるのは
昭和二三年七月七日法律第一〇七号附則第四〇条第五項
同 三八年三月三一日法律第六六号附則第一二条
同 四二年五月三一日法律第二〇号附則第二一条
である。
間接税については、税額に変更のある改正のみで罰則に変更がない場合でも、いわゆる罰則の経過規定はすべておいている。
右法一〇九号においても、罰則にかかる経過措置として、附則四五条において酒税法に関し、同五三条においてたばこ税(旧たばこ消費税)に関し、同第五六条において石油税に関し、同第五八条において取引所税に関し、同第六一条において印紙税に関し、同七七条三項において物品税に関し、同七八条三項において砂糖消費税に関し、同七九条二項において印紙税に関して、同様経過規定がおかれており、そのほか同八八条、同九七条、同一〇三条も同様である。
8 本件において刑法第六条の適用を要する理由
原判決は、前記のとおり、法一〇九号による改正があっても、同法附則二条の規定によって、昭和六三年分以前の所得税については、従前の例によるとされており、株式等の譲渡所得等について設けられた租税特別措置法三七条の一〇及び三七条の一一の規定も昭和六四年(平成元年)四月一日以降の取引に関してのものであるから、刑の変更の問題は生じない旨判示するが、株式等譲渡による所得税課税規定は右改正法一条により所得税法から削除されたが、同時にこれに代る右措置法が制定されたから構成要件としては継続していると見られ、所得税法において、右措置法と同旨の改正がされたと同視すべきものである。
したがって、原判決の判示は右附則二条があって、罰則についての経過規定がないからこそ、刑法第六条の問題が生ずることを看過したことに基づくものである。
すなわち、右附則二条、三条があるので、同六三年以前の所得税については、各当時の税法による所得税額となり、法一〇九号の改正による同六四年以後の所得税額よりも高額となるのであって、ひいて、犯罪時の罰金の上限額より裁判時の罰金の上限額が低くなり、罰金額に変更を生ずるのである。
したがって、改正前の罰則を適用するためには、右附則二条のほかに罰則についての経過規定が必要となるのである。
前記引用の判例はこの理に基づくものである。
三 刑法六条不適用の違法性
以上のとおり、原判決は、法一〇九号により、被告人の所得の大部分を構成する株式売買による所得及び税率等につき規定が改正され、右改正法によると被告人のほ脱税額は著しく減少し、ひいて犯罪後の法律により刑の変更があったから刑法第六条を適用し、新旧両法の比照をして、軽い改正後の法律を適用すべきであるのに、法令の解釈、適用を誤ってこれをなさず、特に罰金刑については法定刑を超過する判決をなし、ひいて憲法三一条、第八四条に違反するとともに、罰則の経過規定を不要とする点において前記昭和三二年一一月二七日の最高裁判所の判例に違反し、新旧両法につき刑の比照をせず、重きものを適用した点において前記同二六年七月二〇日の最高裁判所の判例に違反している。
仮に然らずとするも原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある。
第四 結論
以上のとおりであるから、本件は犯罪の証明がないものとして原判決を破棄し、無罪の判決をされたく、然らずとするも本件事犯については原審のみならず一審においても憲法及び最高裁判所の判例又はこれがないときの控訴審たる高等裁判所の判例に違反している。仮に然らずとするも前述のとおり、一審判決、原審判決とも判決に影響を及ぼすべき法令解釈適用の誤り及び同様重大な事実誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものであるから是非刑事訴訟法四一一条を発動して、いずれの判決をも破棄し、一審裁判所に差戻されたく上告に及んだ次第である。
経過一覧表
○昭和29・9・7 嶋田辰五郎、東亜企業株式会社(大阪華銀が特に設立する子会社)、巫阿渕の三名が日国工業株式会社より本件土地を含む尼崎市戸ノ内地区所在の元工場跡地約四四、〇〇〇坪及び建物一九棟を代金三、三〇〇万円で共同買入した。
出捐額に応じ、その持分を嶋田一二分の四、東亜企業一二分の五、巫一二分の三とした。
○ 29・9・6 張は巫の負担金八二五万円の半分、四一二万五、〇〇〇円を出捐する契約をした。
○ 29・9・7 張一二五万出捐、巫受領。
○ 29・11・6 張三一〇万出捐(うち手数料二二万五、〇〇〇円)巫受領。
○ その後 約五、〇〇〇坪、神崎新地に売渡す
○ 同 約七、〇〇〇坪弱開発費用のため一般に売却
○ 29・11・8 大阪華銀の子会社東亜企業設立
○ 31・6・30 売防法施行により嶋田脱退する(詳細約定のうえ、関係者全員了解して約六三五九・八九坪分割譲渡)
脱退残地一四、五五七・三九坪となる。
東亜企業の商号を東光実業株式会社と変更していたので、東光実業(華銀)と巫との共同事業となる。持分東光実業八分の五、巫八分の三。華銀と巫との間で、残地の管理は東光実業でする、巫の持分八分の三を東光実業名義で保存する、その代り東光実業の経営を巫に一任、巫が東光実業の代表者に加わることなど契約。
○ 31・9・6 華銀、巫は、二一筆一、〇八五・八一坪を日国工業名義から直接東光実業に所有権名義移転。
○ 32・2・26 東光実業内容不良のため巫は代表者辞任、新規会社設立提案。神崎土地振興株式会社設立(資本金二〇〇万円、株式四、〇〇〇株のうち五〇〇株巫、残りは華銀役員名義。代表者巫。)
○ 32・4・11ころ 東光実業を施某に譲渡。東光実業の有した右共同事業の持分は共同事業に大阪華銀が出捐した一、三七五万円の貸金の代物弁済として華銀が取得、承継
○ 32・5・7までに 東光実業名義土地に神崎土地の仮登記を付す(所有権移転登記必要書類も交付)
道路予定地を除き土地明渡請求事件判決物件目録(二)八四筆合計一二、四七六・四三坪を神崎土地に所有権登記(神崎土地名義土地)
○ 32・5・7直後ころ 張は右登記の理由等について華銀役員の蘇に尋ね、華銀と巫が会社を設立し、共同事業地の管理、経営をすることを知る。
華銀は債権者三和銀行から華銀持分の担保提供を求められた。
華銀は巫の了解を得たが、登記を急ぐあまり、保証書で強行しようとして司法書士黒田に依頼。
○ 32・9・20 黒田からの急報で知った巫は立腹し、自己の持分を保全するため仮登記しようとしたが、とりあえず妻名義仮登記土地二三筆五、三一九・一四坪につき、華銀の根抵当を抹消し、妻名義の仮登記をつけた。
○ 32・9・27 巫は華銀の要請で三和銀行に対し、神崎土地所有名義土地に二、五〇〇万円の根抵当権設定登記
当日華銀支払停止
○ 32・9・28 華銀倒産、巫は千葉に知らせた。
そのころ以降 公租公課は、神崎土地名義で納付、宅地造成工事、土地処分も同様。
(37年以降は巫名義で処理。)
○ 32・10・4 華銀債権者集会で理事長が、神崎土地の尼崎の所有地売却により再建可能と説明
その後 そのため巫は、華銀の債権者の追求をおそれ、神崎土地所有名義土地中、未だ仮登記を付していない土地全部についても妻名義の仮登記をつけようとしたが、黒田司法書士から全部の土地に妻名義の仮登記を付けるのは怪しまれるので不可と言われ、神崎土地の残余の土地全部として五九筆六、九三二・二七坪につき千葉の仮登記を付けるため関係書類用意
○ 32・10・10 巫が、張、千葉を喫茶店に呼出し、華銀の倒産対策として右土地に仮登記をつけるよう勧告。張、千葉応諾、登記申請に必要な書類に署名、押印して巫に交付するも詳細不問。
同日千葉のため仮登記。六一筆七、一五七.二九坪であった。
○ 33・7・21 華銀は右各仮登記等に立腹し巫を神崎土地の代表者から解任
○ 33・7・23 華銀は神崎土地名義土地に賃借権設定
○ 34・4・3 六者協定
(六者協定) 華銀、神崎土地代表蘇、華銀預金者代表、土地買受人、巫、張の六者会合
千葉名義仮登記土地のうち一三筆〕
巫幸恵 〃 六筆
計一九筆、四六九二.一六坪、土地明渡請求事件判決
目録(二)中(華銀)とあるもの
を買主に一、八〇〇万円で売却、その際右各仮登記は無償で抹消。その代金で、華銀の貸金に充当。張なんら異議を申立てず。華銀は神崎土地から退く。華銀、巫ともこの時点で残余土地は巫の単独所有と認識。
○ 34・4・7 巫が張に無断で、巫が神崎土地の代表者、張を常務取締役とし、華銀放出の三、〇〇〇株全部を巫名義とした。
○ 34・8・27 張が巫に対し、一三筆の土地分与の調停申立
〔千葉名義仮登記土地のうちの九筆〕
〔幸恵名義仮登記土地のうちの四筆〕
理由として、29・9出捐時に巫の持分の半分を取得したと主張。
(仮登記原因行為の存在には触れなかった。)
○ 34・10・8付書面}
○ 34・11・1付書面 張は巫に、独断専行、東光実業土地に巫幸恵名義仮登記理由、六者協定による一、五〇〇株の引渡意思の存否確認質問状出すも、仮登記については触れていない。
○ 34・11・28 暁の株主総会を張が強行。張が巫を解任し、張が代表者である旨登記
○ 34・12・1 巫は売却残地を大丸土地に所有権移転登記した。
○ 34・12・12 張は神崎土地代表者として大丸土地に対し、売却残地の処分禁止の仮処分申請
○ 35・3・16 張、藤森、蘇は、千葉名義仮登記土地が巫を加えた四名の共有物であることなど確認した覚書作成
○ 35・3 巫から、張の代表者選任決議の不存在確認訴訟提起
○ 35・3末 張、職務執行停止仮処分を受ける。
(39・6・19、決議不存在認容判決、後日確定)
○ 44・10・27 所有権移転登記請求事件千葉提起(千葉名義仮登記土地の売却残地のうち本件土地を含む四三筆につき、仮登記に基づく移転登記の本登記請求)
○ 45・9・14 巫、神崎土地の代表取締役回復登記。
○ 51・2・26 登記請求事件一審判決(千葉勝訴)
○ 55・10・23 同 二審判決(千葉勝訴部分維持)
○ 56・7・21 同 最高裁判所から原審に和解勧告指示
○ 57・2・9 同 最高裁判所判決(千葉勝訴部分維持)
○ 57・2・19 千葉のため本登記
○ 57・6・10 一一筆の土地明渡請求訴訟を千葉提起
請求原因 張が巫との間で、巫が取得すべき脱退残地につき持分共同の共有関係にある旨主張
○ 租税支払 千葉名義仮登記後も売却残地の管理は巫。
固定資産税 神崎土地名義〕
大丸 〃 で支払
(千葉は本件土地につき本登記後も不払)
○ 58年分までの 被告人は昭和五八年分まで、駐車場収入を事業所得として、請求を受けている賃料
所得申告 相当損害金も必要経費に算入せず所得を計算し、ゴルフ練習場内の千葉仮登記土地についても同様必要経費に算入せず、貸家の不動産所得についても同様必要経費に算入しないまま申告。
○ 59年分以降の 同五九年分から、駐車場収入以上の賃料相当損害金を支払わなければならない公算
所得申告 大として同収入は預り金勘定に記帳、収入金額に計上せず。
税務当局も特別の措置講ぜず
○ 平2・2・6 本件株式等売買利益除外過少申告による脱税容疑で大阪国税局査察部の査察を受ける。
○ その後 弁護士豊島、査察部に赴き、費用、収益対応の原則上、賃料相当損害金を必要経費に算入されたい旨要請。同部次長、債務未確定として拒否、駐車場収入の預り金計上分を収入金額に加算する旨言明。
○ 平2・10・30 大阪地方検察庁検察官被告人を本件事犯で起訴。
同弁護士事前に検察官に同様要請するも、検察官は預り金には触れず、賃料相当損害金を必要経費に算入せず犯則所得を計算した。
○ その後 大阪地方裁判所の事前準備の際、弁護人から必要経費算入につき再三要請したのに国税局も検察官もこれを拒否して起訴した以上、禁反言、信義則により、検察官は公判段階での必要経費算入計算は不当と主張
検察官了解
○ 平2・10・3 本件三年分につき所轄阿倍野税務署長から更正処分あり
○ 平2・11・30 同年分につき同署長に異議申立
○ 平3・7・4 同所長より異議決定あり
(賃料相当損害金についてはその債務が未だ確定していないということのみを理由として異議棄却)
○ 平3・7・31 大阪国税不服審判所長に審査請求(係属中)
○ 平3・8・27 本件刑事事件一審一回公判
○ 平4・2・20 本件刑事事件一審判決。
(債務未確定、算定不服等を理由として、賃料相当損害金を必要経費に算入せず)
○ 平5・6・18 本件刑事事件控訴審第三回公判期日に検察官は始めて、賃料相当損害金が令九八条規定の損害賠償金である旨主張
○ 平5・9・8 同事件第四回公判期日において、検察官は訴因の変更をしない旨釈明
○ 平6・1・14 同事件控訴審判決。
(賃料相当損害金が令九八条に該当する損害賠償金であり、かつ、収入より支出が多いことが当初から判明していることを理由として控訴棄却)
平成六年(あ)第一八一号
所得税法違反 被告人 巫阿渕
平成七年一月吉日
右被告人弁護人
弁護士 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷 裁判官各位 殿
明けましておめでとうございます。
皆様良い新年をお迎えになったことと、心からお慶び申上げます。
さて、標記事件につき小職らが作成しました上告趣意書に記載しました刑法六条に関する上告趣意は、同条違反等を理由として上告中の他の案件についての記述と比較したところ、記述すべきところを記述しておらず、記述の順序もいささか分かりにくいなどの点があったほか、これまで、所得税法においても刑(罰則)に変更があったときは、いわゆる罰則についての経過規定を必要と認めて、これをおいていたから、本件のように税額に変更があったときは罰則に変更があったとすること判例、学説に争いのないところであるので、罰則の経過規定がない以上本件に刑法六条を適用すべきものであるという、平凡ながら分り易い、まるでコロンブスの卵のような条理を天啓のように思いつきましたので、ここに謹んで上告趣意書補充書を提出しますから、なにとぞご閲読賜りますようお願い申上げます。
以上
平成六年(あ)第一八一号
上告趣意書補充書
所得税法違反 被告人 巫阿渕
右被告人にかかる頭書被告事件について先に提出した弁護人らの上告趣意書を左記のとおり補充、訂正します。
平成七年一月六日
右被告人弁護人
弁護士 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷 御中
記
弁護人は先の上告趣意書において、原判決が本件事犯について刑法第六条を適用しなかったのは税法の解釈適用を誤った違法がある旨主張したが、この点につき記載内容を次のとおり整理、補充する。
一 上告趣意書九八頁一行目の「罪則」を「罰則」に改める。
二 同趣意書九九頁の一二行目と一三行目の間に「同法八八六条一項の基礎控除の金額が増額され、」を加える。
三 同趣意書一〇一頁八行目の「多額納税者」の上に「被告人を含む」を加える。
四 同趣意書一〇三頁二行目と三行目の間に次の一行を加える。
「現代法律学全集25刑法総論荘子邦雄九四頁」
五 同趣意書一〇五頁の4項全部を次のとおり改める。
4 刑法六条の適用がある場合は新旧両法につき刑の比照をすべきであるとするのが最高裁判所の判例である
(一) 最高裁判所昭和二四年一〇月一日判決(刑集三巻一〇号一六二九頁)
「罰金額につき変更があったので刑法六条に従い軽い行為時当時のものによる」とする判旨
(本件にまさに適用すべき判例である)
(二) 最高裁判所昭和二五年三月三一日判決(刑集四巻三号四六二頁)
「犯罪後罰金等臨時措置法によって法定刑が変更せられたときは、新旧両方の刑を比照すべきである」とする判旨
(三) 最高裁判所昭和二六年七月二〇日判決(刑集五巻八号一六〇四頁)
「犯罪後の法律により刑の変更があったのに、新旧両方につき刑の比照をせず、重いものを適用処断した判決は、刑訴法四一一条一号により破棄を免れない」とする判旨
六 同趣意書一〇七頁の三行目の「税率の変更」の次に「等」を加える。
七 同趣意書一一〇頁一行目の「附則三条」とあるのを、「附則二条(基礎控除、税率変更等)及び同三条」と改める。
八 同趣意書一一〇頁末行の「昭和二三年」以下の一行を削除する。
九 同趣意書一一一頁二行目の「二一条」の次に「(条項変更あり)」の字句を加える。
一〇 同趣意書一一一頁一四行目と一五行目の間に次の字句を加える。
「(一) 従来の刑変更の際の規定上明らかである刑法六条適用の必要性
(1)ア 直接税、本件では所得税法であるが、同法において従来罰則(刑罰)そのものに変更があったときは、常に、いわゆる罰則についての経過規定をおいていることは公知の事実である。
イ 右経過規定があることによって、刑法六条の適用がないと解されてきたことも前記判例、通説の示すところである。
(2) 税額の変更も刑の変更に当たることは前記のとおり、判例通説の示すところである。
(3) 法一〇九号によって、所得税額は前記のとおり有価証券の譲渡益に関する法令の改廃、所得税法中税率の変更、基礎控除額等の変更により、従来より所得税額が著しく減少したことはその規定によって明白である。
(4) したがって法一〇九号によって税額が従来より少なく変更したことになるから、刑(罰則)の変更があったことになる。
(5) しかるに、右法一〇九号には、右税額の減少変更についての罰則の経過規定がないから、刑法六条を適用して、税額の減少している裁判時の罰則を適用すべきものである。
(6) 所得税に関する経過規定と罰則に関する経過規定が別個のものであることは従来の例によって明白である。
(7) よって本件について刑法六条を適用すべきことは右理由のみによっても明白である。」
一一 同趣意書一一一頁末行の「原判決」の上に番号として「(二)」を加える。
一二 同趣意書一一三頁五行目の次に次の字句を加える。
「9 なお、法一〇九号の規定により算出される現時点の被告人の脱税額は地代相当補償金の必要経費算入を除外しても前記のとおり極めて僅少のものとなる以上、刑の量定は罰金刑のみならず自由刑についても新法による脱税額を基準とすべきものとなる。」
平成六年(あ)第一八一号
上告趣意書補充書
被告人 巫阿渕
右の者に係る所得税法違反事件の上告趣意を左記のとおり補充する。
平成八年一月四日
右被告人
(主任)弁護人 村上幸太郎
弁護人 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷
御中
第一 被告人と千葉喜代間の別件土地明渡等請求事件(上告趣意書資料1判決にかかる事件)につき、右資料1の一審判決と同旨の控訴審判決があったことについて
右一審判決について右千葉喜代が大阪高等裁判所に控訴し、同裁判所平成五年(ネ)第三四五八号事件として係属していたところ、同裁判所は別添資料4のとおり平成七年三月三一日右一審判決を支持し、右資料4のとおり千葉の控訴を棄却した。
千葉は更に上告し、右上告事件は貴法廷に係属中とのことであるので、貴法廷におかれても事実上明らかとなっているところではありますが、事件が異なりますので右控訴審判決を上告趣意書添付の資料に引きつづき資料4として提出するものであります。
しかして、右上告事件において、控訴審判決が支持されるときは(その公算は大きいと思料される)、「原判決の証拠となった裁判が確定判決により変更されたもの」として再審事由となり(刑訴法四三五条四号)、ひいて同法四一一条四号に定める本件上告事件の破棄事由にもなるほか、その変更の内容よりして、右は「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認」をもたらすものであること明白であるので、それは同時に、同条三号の破棄事由にもあたることになろう。
されば本件に対する判決は、右上告事件の帰趨を俟ってなされたい。
もっとも、右上告事件が未確定の現時点においても結局原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるとせざるを得ない点において右と帰を一にすることになろう。
即ち、既に右一、二審判決によって、本件経費の原因となる土地につき、それは上告人と張(千葉)との共有であってこれが使用に関する法律関係は、不法行為を構成するものではないとされているのであるから、右上告事件の帰趨を待つまでもなく、右土地の使用に伴う負担を経費に算入できる可能性は十分ある訳である。
しかりとすれば、「疑わしきは被告人の利益」の法理によって、本件土地は、上告人と張との共有であり、これを上告人が単独で使用収益しているものとして、上告人が張に支払うべき金額を算定し、これを経費として上告人の収入より差し引いたうえ、所得税額を計算し、もって逋脱の有無多寡を確定しなければならない理となる。そして、それらの数額の立証はあげて検察官の任であること論を俟たない。
原判決には、現時点において、既に判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるとする所以である。
本件はすべからく、原判決を破棄して原審若しくは第一審に差し戻さるべきである。
第二 賃料相当補償金(損害金)を毎年分の所得計算上必要経費に算入しないと、納税者に過大な納税負担を強いる結果となることについて
一 この点については上告趣意書の八八、八九頁に一応簡述しているが、若干補充する。
二1 本件対象年分後の平成元年分以降の被告人の所得税申告に対し、課税庁は本件賃料補償金(損害金)は未だ債務が確定していないとの理由で右補償金として推計した金額を必要経費として算入した計算を否認して更正し、これに対する不服申立についても同様主張を続けている(別添資料6参照)。
2 課税庁の主張は要するに千葉喜代との争いが最終的に決着し確定するまで賃料相当補償金は毎年分の必要経費に認められない、争いが決着した時に始めて、それまでの賃料相当補償金の全額を、争いの決着した年分の必要経費に一度に算入するべきであるというのである。
被告人と千葉との争いはこれまで数十年にわたって争われ、賃料相当補償金も昭和五四年六月一〇日以降の分が請求されており、賃料相当補償金が最終的に決着するまで今後更に何年を要するか不明である。
そうすると、最終的に決着したときの賃料相当補償金の金額は千葉の請求金額を割引いて考察しても、少なくとも一〇億円を超える巨額に達することは明らかである。
課税庁の主張どおりとすると、被告人は千葉との争いが決着した年分に一度に少なくとも一〇億円以上の賃料相当損害金の必要経費を生じるが、これを被告人の収入金額から全額控除することは事実上不可能である。
すなわち、被告人の毎年の所得金額は平成五年分を例にとると別添資料5のとおり、賃料相当補償金を除くと年間約七、八〇〇万円にすぎないから、巨額の純損失を生ずる。
ところが被告人は所得税法七〇条により、その年より後の三年間の所得金額からこの純損失を繰越控除できるほか、青色申告をしているから同法一四〇条により一年分だけ、純損失の繰戻による前年分の納税額から還付を受けることができるものの、結局当年分と前後あわせて五年間の所得金額の計算上必要経費に計上できるに過ぎないので、支払うべき賃料相当損害金のほとんどは実際上必要経費に計上できず、それだけ本来納付する必要のない過大な所得税の徴収を受けることになるのである。
3 もっとも、確定申告に当たって、賃料相当補償金を必要経費に算入していなくとも(課税庁は、争いが解決するまで必要経費に算入できないという見解をとっているから、その見解に従うと毎年の確定申告の際必要経費に算入できないこととなる)通則法二三条二項が適用され、遡って過去何十年にわたって毎年の所得金額について更正の請求ができるというのなら、右2の不都合はないが、右二三条二項は、申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じた場合に適用されるものであるというのが判例、通説である(大野財務協会、国税通則法精解三〇二頁)と解される。
そうすると、本件のような申告時に予知されている場合には適用されないということになる。
4 したがって、もし、最高裁判所が課税庁の見解のように、本件の場合、千葉との争いに決着がつくまで賃料相当補償金を必要経費に算入できないという説を採用するのであれば、これまでの最高裁判所の判決例のように、その説を採用しても納税者に著しく不当に過大な損害を与えない救済方法があるという法的根拠を判決において明らかにされたい。
最高裁判所がその法的根拠を明らかにすれば課税庁はその見解にしたがって、納税者に不当に過大な損害を与えるような措置はしないが、そうでないと被告人は右2のような不公平、かつ過酷な納税義務を課せられることとなる。
三1 被告人が千葉のみならず、他人と共有の土地(別添資料5訴状添付(資料1)巫阿渕の事業用用地及び貸家用地のうち千葉喜代又は幸田由紀子と共有土地明細一覧表参照)を利用して得られた収入は所得税法上収入金額に計上すべきである。
被告人はゴルフ場敷地として使用していた土地を利用して得られた収入及び貸家の敷地として利用して得られた収入については、確定申告において収入として計上していた。ガレージ敷地として利用して得られた収入のうち本件事犯対象年分は仮受金に計上していたから、この金額は収入金額に加算すべきである。
2 他方右各敷地について被告人が他人に支払うべき賃料相当補償金は、その土地を利用して得られる収入の原価であるから、推計してでも必要経費に算入すべきである。
その会計処理上の理由については既述しているが、条理上の理由を具体例をもって説明すると、牛を一〇〇〇頭買ってこれを転売したとき、転売価額に争いはないが、買値について争いがあるとき、買値すなわち仕入金額を必要経費に算入できないとすれば、転売したときの収入金額を即所得金額として申告しなければならなくなり、不公平、かつ過酷な納税を強いることになることからも明らかである。
第三 検察官の訴因変更について
これまで弁護人は課税庁及び検察官の賃料相当補償金の処理があまりに公正妥当な会計処理の原則に反するので、裁判の段階で賃料相当補償金を必要経費に算入して実際所得金額を減少する訴因の変更はしないよう要求してきた(別添資料5訴状第七、事情の項参照)が、既に控訴審判決の内容で債務未確定説は誤りであることが分って戴けたと思うので、この要求は撤回する。
第四 刑法六条適用について
最近本件のような事犯に刑法六条を適用する必要がない旨の最高裁判所の判決がなされているが、その判決の理由はどう考えても行政偏重で公平を欠き、肯認できない。時代は大変革にさしかかっている。後世の学説の批判に堪える判決を期待する次第です。
以上
平成六年(あ)第一八一号
所得税法違反事件
被告人 巫阿渕
平成八年七月二七日
右被告人弁護人
弁護士 村上幸太郎
同 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷
御中
上申書
一 被告人にかかる頭書被告事件において、被告人の本件各年分の事業所得及び不動産所得の計算上、千葉喜代に支払うべき地代相当損害金の必要経費算入時期について、原審は右損害は被告人の不法行為によるものであるから、その損害金は必要経費に算入できないとの説を採用し、これを主たる理由として、一審判決同様各年分の地代相当損害金を当該各年分の必要経費に算入せず被告人の控訴を棄却しました。
二 しかし、一方、かねて貴庁に係属していた貴庁平成七年(オ)第一六四五号事件(上告人千葉喜代、被上告人巫阿渕)について、貴庁は平成八年六月二七日付けをもって上告人の上告を棄却する旨判決され、ここに右当事者間の一審判決は確定致しました。
したがって、被告人に対する不法行為による損害賠償請求権が千葉喜代にないことは確定致しました。
三 しかしながら、上告趣意書において既に弁護人らは不法行為は存在しないこと及び不当利得に基づく損害賠償金はこれを支払う義務があることを述べているところでありますが、右民事の判決確定を機に念のため次のとおり蛇足を加えます。すなわち、右民事訴訟の一審判決が、その判決書の理由五項(三四丁表、裏)で指摘しているとおり不法行為に基づく損害賠償請求権の存在は否定されたものの、千葉と審査請求人の本件係争土地についての共有持分は二分の一ずつであるので、両名の共有土地を被告人が単独で占有している部分については、被告人において不当利得による損害賠償債務がある旨の判示があり、近い将来千葉において不当利得による損害賠償債権の行使があることは必至でありますので、被告人においては、当該土地につき相当額の地代相当損害金を支払う義務があります。
四 なお、被告人において不当利得により千葉に支払うべき地代相当損害金の計算の根拠となる土地の範囲及び土地の更地価額等については、その後の検討により、弁護人の主張を多少訂正する必要を生じております。
五 ご判決に当たっては、以上のことをご配慮くださるよう上申する次第です。
以上
平成六年(あ)第一八一号
上申書
所得税法違反被告事件
被告人 巫阿渕
平成九年五月一日
右被告人弁護人
(主任)弁護士 村上幸太郎
弁護士 豊島時夫
最高裁判所第一小法廷
御中
一 被告人にかかる頭書被告事件において、弁護人らは被告人の本件各年分の事業所得及び不動産所得の計算上千葉喜代に支払うべき地代相当損害金を各年分の必要経費に算入すべきである旨主張していますが、かねて千葉喜代から被告人を相手とする土地明渡請求上告事件(貴庁平成七年(オ)第一六四五号事件)において右千葉から被告人に対する不法行為による損害賠償請求もあわせて全部棄却されたことは、当弁護人らの平成八年七月二七日上申書記載のとおりであります。
二 当弁護人らは右上申書において、右千葉から新たに地代相当損害金の請求があるものと予測していましたが、別添訴状のとおり右千葉の夫千葉寿史を原告とし、被告人を被告とする共有物分割請求訴訟が提起され、あわせて賃料相当損害金も請求されています。
右訴訟については、いろいろ法的な問題はありますが、いずれにしても千葉側から、地代相当損害金を請求する旨の訴が提起されましたので、ご参考までに右訴状を添付して上申致します。
以上
訴状
614 京都府八幡市八幡三本橋七五番地の六
原告 千葉寿史
530 大阪市北区西天満五丁目九番三号
高橋ビル本館四階
右原告訴訟代理人
弁護士 太田忠義
同 柴田龍彦
同 岸本寛成
659 兵庫県芦屋市岩園町二五番一二号
(登記簿上の住所 大阪市阿倍野区松崎町二丁目七番一五号)
被告 巫阿渕
共有物分割等請求事件
請求の趣旨
一 被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の各土地は原告の所有であることを確認する。
二 被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載各土地を引渡し、昭和六二年一月一日から、同目録24、28、29の各土地引渡済にいたるまで月額金三〇万円の、同目録26記載の土地引渡済にいたるまで月額金五万二五〇〇円の、同目録27記載の土地引渡済にいたるまで月額金一五万円の、同目録35、36記載の各土地引渡済にいたるまで月額金一一万七五〇〇円の、各割合による金員を支払え。
三 別紙物件目録(二)、17、20、34、35、39、33の各土地は、原告と被告の各持分二分の一ずつの共有であることを確認する。
四 被告は原告に対し、
1 別紙物件目録(二)、17記載の土地の別図1記載の個所を分筆し、同個所について神戸地方法務局尼崎支局受付の別紙登記目録一、記載の所有権移転請求権仮登記等の抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
2 同目録20、34、35、39記載の土地の別図2記載の個所を分筆し、同個所について同法務局同支局受付の別紙登記目録二、記載の根抵当権設定登記抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
3 同目録33記載の土地の別図3記載の個所を分筆し、同個所について同法務局同支局受付の別紙登記目録三、記載根抵当権設定登記等抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
五 別紙物件目録(三)、4、5、6、7、8、9、11の各土地は、原告と被告の各持分二分の一ずつの共有であることを確認する。
六 被告は原告に対し、
1 別紙物件目録(三)、4記載の土地の別図4記載の個所を分筆し、同個所について神戸地方法務局尼崎支局受付の別紙登記目録四、記載の所有権移転請求権仮登記抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
2 同目録5乃至9記載の土地の別図5記載の個所を分筆し、同個所について同法務局同支局受付の別紙登記目録五、記載の根抵当権設定登記抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
3 同目録11記載の土地の別図6記載の個所を分筆し、同個所について同法務局同支局受付の別紙登記目録五、記載の根抵当権設定登記抹消登記手続をなしたのちに所有権移転登記手続をなし、同個所を引渡せ。
七 被告は原告に対し、昭和六二年一月一日から前記二項、四項1乃至3六項1乃至3の各引渡完了に至るまで一か月金四七万二五〇〇円の割合による金員を支払え。
八 訴訟費用は被告の負担とする。
九 二項及び七項は仮に執行することができる。
との判決を求める。
請求の原因
一1 訴外日国工業株式会社(以下「日国工業」という。)は、もと尼崎市戸ノ内地区に戦災焼跡工場及び同工場敷地として別紙物件目録(一)乃至(三)記載の各土地(以下「目録(一)記載土地」、「目録(二)記載土地」、「目録(三)記載土地」という。)を含む一区画の土地約四万四〇〇〇坪(以下「工場跡地」という。)を所有していた。
2 昭和二九年九月、嶋田辰五郎(以下「嶋田」という。)東亜企業株式会社(昭和二九年一二月一日に東光実業株式会社に商号変更。更に昭和三二年五月一日に株式会社ニュー銀馬車に商号変更。以下「東亜企業」または「東光実業」という。)、被告は日国工業から工場跡地を買受け、嶋田一二分の四、東亜企業一二分の五、被告一二分の三の各割合で配分することを約し、同月九日日国工業より工場跡地及び同地上建物一九棟を代金三三〇〇万円で買入れ(但し、買主は嶋田単独名義)、工場跡地及び右地上建物は右持分割合による右三名の共有となった。
3 前記工場跡地の共同買受けに先立ち、被告は自己の買受資金分担額八二五万円の調達ができなかったので、右売買契約締結の前日である昭和二九年九月六日にかねてから親交のあった原告(当時の氏名は張寿郷。後に帰化して千葉寿史)に対し、右工場跡地等の共同購入の話を説明し、明日手付金五〇〇万円の負担金一二五万円がいるが調達する目処がないので一二五万円作ってほしい、いい話だから一緒に買おう、自分の持分四分の一の半分(全体の八分の一)を譲渡するから金を作って欲しい旨申し入れた。
原告は、当時被告とは家族ぐるみで交際している仲であったところからこれに応じ、工場跡地四万四千坪の八分の一を代金四一二万五〇〇〇円で買取ることとし、同月七日に金一二五万円を、同年一一月六日代金残額二八七万五〇〇〇円と手数料二二万五〇〇〇円、計金三一〇万円を支払った。
4 その後工場跡地は、嶋田、被告らによって約五〇〇〇坪が「神崎新地」歓楽街に、約六~七〇〇〇坪は開発費用捻出等のため一般向けに、合計約一万一〇〇〇ないし一万二〇〇〇坪が売却され、約一万二〇〇〇坪は道路敷として尼崎市へ寄附予定地として共有対象から除外された。
ついで、昭和三一年六月、売春防止法施行を機に嶋田が約六三五九・八九坪を取得して共有関係から脱退し、別紙物件目録(一)ないし(三)記載各土地実業八分の五、被告八分の三の共有となった。
二1 東亜企業は信用組合大阪華銀(以下「大阪華銀」という。)が金融機関のため自ら名義を出すことをはばかり、本件共同事業に参加するため昭和二九年一一月八日設立したいわゆる子会社であったが、嶋田の脱退後、大阪華銀と被告は東光実業を通じ脱退残地の経営を会社組織でなそうとし、そのため東光実業の名義を借用し、東光実業、被告の共有に属する脱退残地の所有名義を移転することとした。
そこで、東光実業と被告は、まず昭和三一年九月六日頃尼崎市戸ノ内字長割七一五番五八外二一筆計一〇八五・八一坪(以下「東光実業名義土地」という。)と建物一九棟の所有名義を日国工業より東光実業に移転を受け、土地経営を初めようとしたが、間もなく被告がこれに反対し出し、別会社によることを提唱したため、新たな会社によることになった。
そこで、同三二年二月二六日神崎土地振興株式会社(以下「神崎土地」という。)が設立され、神崎土地は同年五月七日までに東光実業名義土地については所有権移転登記に必要な書類を徴したうえ仮登記を、その余の残地のうち八二筆計一万二〇三六・三坪(以下「神崎土地名義土地」という。)については所有権移転登記を経由した。
神崎土地は、その名義を借用して脱退残地の管理、運営をなすための名目会社(いわゆるペーパーカンパニー)で、真実脱退残地の所有権を取得したものではなく、登記簿上の所有名義は実体を伴わない虚偽のものであったが、原告はその頃は右事実を知らなかった。
2 昭和三二年夏頃、原告は脱退残地のうち神崎土地名義土地が前記のように、売主日国工業から神崎土地名義に所有権移転登記が経由されたことを知り、被告に対し、被告は自ら代表権を有する神崎土地に原告に交付すべき四万四〇〇〇坪の八分の一に当たる土地を取得せしめ、神崎土地は右事実を知りながら原告の取得すべき右土地を取込んだ、いつ土地をくれるのかはっきりせよ、と追求した。
これに対し、被告は同年八月ないし一〇月初頃原告及び原告の妻である訴外千葉喜代(当時の氏名張清子。以下「千葉喜代」という。)を大阪市北浜所在の喫茶店に呼出し、土地はそのうちに完全に引渡すこととするが今は神崎土地が発足したばかりでもあり事務整理の都合もあるから本登記手続は一年位待ってほしいと申し入れ、原告との間で目録(一)記載土地を含む五九筆計六九三二・二七坪の土地(以下「張清子名義仮登記土地」という。)を神崎土地名義土地のうちから選択し、その際、被告は自分は妻幸恵名義で所有権移転仮登記をなしているので原告も妻名義で所有権移転仮登記を経ることを勧めたので原告はこれを了承し、被告は千葉喜代より所有権移転仮登記に必要な書類に捺印を求め、張清子名義仮登記土地について張清子を権利者とする神戸地方法務局尼崎支局昭和三二年一〇月一〇日受付第一六七二二号原因同年六月一日売買予約の所有権移転請求権保全仮登記(以下「張清子名義仮登記」という。)を経由した。
なお、被告は神崎土地名義土地のうち二三筆計五三一九・一四坪(以下「巫幸恵名義仮登記土地」という。)について訴外巫幸恵を権利者とする同法務局同支局昭和三二年九月二〇日受付第一五七三二号原因同年六月一日売買予約の所有権移転請求権保全仮登記(以下「巫幸恵名義仮登記」という。)を経由していた。
3 大阪華銀は昭和三二年九月二八日倒産し、昭和三四年四月三日大阪華銀代表理事黄雲水、神崎土地代表取締役蘇啓輝(後に、河合啓輝と改名)、大阪華銀預金者代表林同春、土地買受人黄雲水、巫幸恵名義仮登記土地の仮登記権利者巫幸恵代理人被告、張清子名義仮登記土地の仮登記権利者張清子代理人原告の六者が会合し、神崎土地名義土地のうち、張清子名義仮登記土地のうち一三筆計二四五四・二三坪、巫幸恵名義仮登記土地のうち六筆計二二三七・九三坪、合計四六九二・一六坪の土地を右黄雲水に一八〇〇万円で売却し、その代金をもって神崎土地の大阪華銀に対する右同額の貸金債務の弁済に充当し、残債務をすべて免除し、大阪華銀は被告、蘇啓輝の各五〇〇株を除く神崎土地の株式を放出し、選出役員全員を辞任させる等の合意(以下「六者協定」という。)をなした。
六者協定において、脱退残地のうち昭和三四年四月三日当時残存していた土地について、被告と大阪華銀との間で分割協議がなされ、そこで売却土地が実質的に大阪華銀に分割されたことと解され、被告は六者協定による売却土地以外の残存土地について単独所有権を取得したというべきである。
4 ところで、張清子名義仮登記土地に対する張清子名義仮登記の効力については、次のとおり判決がわかれている。
(一) 千葉喜代は、原告と被告との間の昭和二九年九月の前記売買契約は制限種類売買であり、被告は張清子名義仮登記土地を特定して張清子名義仮登記をなしたもので原告を経由して右土地を取得したことを理由に、昭和四四年に神崎土地に対し張清子名義仮登記土地について張清子名義仮登記に基づく所有権移転登記の本登記手続請求訴訟を、訴外大丸土地株式会社に対し右本登記手続の承諾請求訴訟を提起した。
右訴訟は、大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第五九七八号所有権移転登記手続等請求事件、大阪高等裁判所昭和五一年(ネ)第四〇四号所有権移転登記手続等請求控訴事件、最高裁判所昭和五六年(オ)第五六号事件として審理され、千葉喜代は勝訴し、目録(一)記載土地について昭和五七年二月一九日所有権移転登記を経由した。
(二) 千葉喜代は被告に対し、目録(一)記載土地のうち3、4、24、26、27、28、29、35、36、38、40の各土地について明渡訴訟を提起し、神戸地方裁判所尼崎支部昭和五七年(ワ)第三九八号土地明渡請求事件、大阪高等裁判所平成五年(ネ)第三四五八号土地明渡請求控訴事件、最高裁判所平成七年(オ)第一六四五号事件として審理されたが、張清子名義仮登記土地に対する張清子名義仮登記は、大阪華銀と被告の共有関係解消時に被告が取得する土地に対する原告の二分の一の持分を担保を兼ねてなされたものと推認することができ、被告は六者協定により六者協定履行後の残地について単独所有権を取得し、ここにいたって六者協定履行後の残地は原告と被告の持分共有に属したのであり、原告と被告間には共有物分割はなされていないとの理由に敗訴となった。
右(一)の記載の第一審判決は昭和五一年二月六日、第二審判決は同五五年一〇月二三日、上告審判決は同五七年二月九日に各言渡されており、当時においては昭和二九年当時の経済状勢、不動産取引の経験則は裁判所に公知の事実であったが、右(二)記載の第一審判決が言渡されたのは平成五年一二月二一日で昭和二九年九月から三九年の長年月が経過しており、バブル経済が崩壊したとはいえ土地神話の影響がなお強く残存している時期であり昭和二九年当時の状勢についての認識が存しなかったことによるのではないかと推測されるが、原告および千葉喜代にとっては甚だ迷惑なことである。
三1 六者協定履行後の残存土地のうち現存する土地は目録(一)ないし(三)記載の土地であり、目録(一)記載土地については千葉喜代名義の、目録(二)記載土地については被告名義の、目録(三)記載土地については神崎土地名義の各所有権移転登記が経由されているが、いずれも原告と被告の各持分二分の一の共有に属するものである。
平成八年度の固定資産課税台帳記載の評価額は、目録(一)記載土地は計一三億四五二一万六五一五円、目録(二)記載土地は計一〇億二一八四万一五二八円、目録(三)記載土地は計一〇億一五二一万三七一五円、合計三三億八二七七万一七五八円であり、原告の持分二分の一の金額は一六億九一一三万五八七九円である。
目録(一)記載土地は、前記のように、被告がその取得する土地に対する原告の持分二分の一を担保するために張清子名義仮登記をなしたものであり、目録(二)、(三)記載各土地については全て別紙登記目録記載の所有権移転請求権仮登記、根抵当権設定登記等がなされているから、目録(一)記載土地は共有物分割により原告が取得すべきものである。
2 原告の持分二分の一の金額は一六億九一一三万五八七九円であるから、原告は目録(一)記載土地を取得してもなお三億四五九一万九三六四円相当の土地を取得しなければならない。
原告は被告に対し、共有物分割により取得すべき三億四五九一万九三六四円相当の土地として、左記土地の分筆、別紙登記目録記載登記の抹消、所有権移転登記手続及び引渡しを求める。
<1> 目録(二)17記載の土地
評価額 二億二四七七万三九二円
原告持分価額 一億一二三八万五一九六円
分筆すべき個所 別図1記載の個所八〇四m2二六
抹消すべき登記 別紙登記目録一、記載の登記
<2> 目録(二)20、34、35、39記載の土地(一団を形成している)
計一四〇九m2五三
評価額 計一億四七四〇万八六四六円
原告持分価額 七三七〇万四三二三円
分筆すべき個所 別図2記載の個所七〇四m2七六
抹消すべき登記 別紙登記目録二、記載の登記
<3> 目録(二)33記載の土地
評価額 一八六七万七〇〇〇円
原告持分価額 七一二万六〇九七円
分筆すべき個所 別図3記載の個所七二m2一六
抹消すべき登記 別紙登記目録三、記載の登記
<4> 目録(三)4記載の土地
評価額 一億 四〇万三〇七四円
原告持分価額 五〇二〇万一五三七円
分筆すべき個所 別図4記載の個所四八〇m2〇三
抹消すべき登記 別紙登記目録四、記載の登記
<5> 目録(三)5ないし9記載の土地(一団を形成している)
計一二二七m2七四
評価額 一億六三四七万二九〇三円
原告持分価額 八一七三万六四五一円
分筆すべき個所 別図5記載の個所六一三m2八七
抹消すべき登記 別紙登記目録五、記載の登記
<6> 目録(三)11記載の土地
評価額 四一三五万一五二〇円
原告持分価額 二〇六七万五七六〇円
分筆すべき個所 別図6記載の個所一六六m2七四
抹消すべき登記 別紙登記目録五、記載の登記
原告持分価額合計 三億四五九一万九三六四円
3 被告は、昭和四六年頃から原告と持分二分の一の共有にかかる左記土地を露天駐車場として賃貸して左記収入を得ているが、その二分の一相当額は原告が取得すべきものである。
原告は被告に対し、昭和六二年一月一日以降共有物分割による土地引渡済にいたるまで左記の月額賃料相当額の支払いを求める。
<1> 目録(一)24、28、29記載の土地
面積 計五五〇一m2五四
駐車台数 一二〇台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 六〇万円以上
原告請求額 月額三〇万円
<2> 目録(一)26記載の土地
面積 三五〇m2二八
駐車台数 二一台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 一〇万五〇〇〇円以上
原告請求額 月額五万二五〇〇円
<3> 目録(一)27記載の土地
面積 一二八五m2四二
駐車台数 六〇台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 三〇万円以上
原告請求額 月額一五万円
<4> 目録(一)35、36記載の土地
面積 計七八〇m2六二
駐車台数 四七台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 二三万五〇〇〇円以上
原告請求額 月額一一万七五〇〇円
<5> 目録(二)17記載の土地
面積 一六〇八m2五二
駐車台数 七二台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 三六万円以上
原告請求額 月額一八万円
<6> 目録(二)22ないし28、30ないし33記載の土地
面積 計一六七三m2九三
駐車台数 七〇台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 五万五〇〇〇円以上
原告請求額 月額一七万五〇〇〇円
<7> 目録(三)6ないし9記載の土地
面積 計八九六m2六七
駐車台数 四七台以上
賃料 一台 月額五〇〇〇円以上
賃料合計月額 二三万五〇〇〇円以上
原告請求額 月額一一万七五〇〇円
四 よって、原告は被告に対し、原告、被告各持分二分の一の共有に属する目録(一)ないし(三)記載土地の分割として、<1>原告が目録(一)記載土地を取得したこと、<2>目録(一)記載各土地の引渡しと、昭和六二年一月一日から、原告の取得すべき駐車場賃料相当額として同目録24、28、29記載の土地引渡済にいたるまで月額三〇万円の、同目録26記載の土地引渡済にいたるまで月額金五万二五〇〇円の、同目録27記載の土地引渡済にいたるまで月額金一五万円の、同目録35、36記載の土地引渡済にいたるまで月額一一万七五〇〇円の各割合による金員の支払いを、<3>請求の趣旨三項、<4>請求の趣旨四項、<5>請求の趣旨五項、<6>請求の趣旨六項の各請求と、<7>昭和六二年一月一日から請求の趣旨二項、四項、六項の各引渡完了に至るまで、被告が共有土地の駐車場賃料として取得した三項3、<5>ないし<7>記載の賃料のうち原告が取得すべき賃料相当額月額計四七万二五〇〇円の割合による金員の支払いを求める。
証拠方法
必要に応じ随時提出する。
添付書類
一、委任状 一通
一、固定資産課税台帳登録事項証明書 二六通
平成八年一二月二六日 右原告訴訟代理人
弁護士 太田忠義
同 柴田龍彦
同 岸本寛成
神戸地方裁判所尼崎支部 御中
物件目録(一)
1 尼崎市戸ノ内町六丁目八一五番二九 宅地 一二〇m2二四
2 同所 八一五番五〇 宅地 三七六m2四五
3 同所 八一五番三〇 宅地 七八m2四四
4 同所 八〇三番二三 宅地 一〇二〇m2三三
5 同所 七八三番六二 宅地 六五m2二八
6 同所 七八三番六三 宅地 四八m2三六
7 同所 七八三番六四 宅地 四八m2〇三
8 同所 七八三番六五 宅地 四八m2〇三
9 同所 七八三番六六 宅地 四八m2〇三
10 同所 七八三番六七 宅地 四八m2〇三
11 同所 七八三番六八 宅地 四八m2〇三
12 同所 七八三番六九 宅地 九四m2八七
13 同所 七八三番七七 宅地 四八m2三六
14 同所 七八三番七八 宅地 四八m2〇三
15 同所 七八三番七九 宅地 四八m2〇三
16 同所 七八三番八〇 宅地 四八m2〇三
17 同所 七八三番八三 宅地 九四m2八七
18 同所 七八三番八四 宅地 九四m2八七
19 同所 七八三番八五 宅地 四八m2〇三
20 同所 七八三番八六 宅地 四八m2〇三
21 同所 七八三番八七 宅地 四八m2〇三
22 同所 七八三番八八 宅地 四八m2〇三
23 同所 七八三番八九 宅地 三三m2〇九
24 同所 七九二番四三 宅地 七二四m2二九
25 同所 七九二番五八 宅地 一三m2八八
26 同所 七九二番七二 宅地 三五〇m2二八
27 同所 七九二番六九 宅地 一二八五m2四二
28 同所 八〇三番一八 宅地 四一七七m2二二
29 同所 七七一番一一 宅地 六〇〇m2〇三
30 同所 七七一番二四 宅地 三五m2五〇
31 同所 七七一番二五 宅地 二八m2二六
32 同所 七七一番二六 宅地 二七m2九六
33 同所 七七一番二七 宅地 二七m2六六
34 同所 七七一番二八 宅地 二七m2三七
35 尼崎市戸ノ内町三丁目七一五番二 宅地 一〇〇m2七六
36 同所 七五六番二一 宅地 六七九m2八六
37 同所 七三八番一三 宅地 六二m2六四
38 同所 七三八番一五 宅地 四六六m2〇一
39 同所 七三八番一六 宅地 一m2一五
40 同所 六五七番一六 宅地 三六四m2〇〇
計 一一、六二三m2八一
物件目録(二)
1 尼崎市戸ノ内町六丁目八一五番二 宅地 八七m2四七
2 同所 八一五番一七 宅地 九五m2六〇
3 同所 八一五番一八 宅地 八五m2六八
4 同所 八一五番二二 宅地 二四m2〇九
5 同所 七九二番一五 宅地 七一m2二〇
6 同所 七九二番三二 宅地 七四m2七七
7 同所 七九二番三四 宅地 五一m2〇〇
8 同所 七九二番二七 宅地 七四m2八七
9 同所 七九二番二一 宅地 七一m2二〇
10 同所 七九二番二二 宅地 七一m2二〇
11 同所 七九二番二四 宅地 七八m2九四
12 同所 七九二番一三 宅地 七三m2一五
13 同所 七九二番一二 宅地 六七m2二三
14 同所 七九二番一一 宅地 六七m2二三
15 同所 七九二番一〇 宅地 六七m2二三
16 同所 七九二番九 宅地 九八m2六七
17 尼崎市戸ノ内町三丁目七七一番一九 宅地 一六〇八m2五二
18 同所 七一五番五二 宅地 三三一m2一〇
19 同所 七一五番七五 宅地 四三〇m2一四
20 同所 七一五番八〇 宅地 三四m2六一
21 同所 七五六番一四 宅地 一〇九m2七八
22 同所 六七八番三四 宅地 一一一m2六三
23 同所 六七八番三五 宅地 一四三m2五三
24 同所 六七八番三六 宅地 一四三m2五三
25 同所 六七八番五六 宅地 八一m2九一
26 同所 六七八番二九 宅地 一七三m2二八
27 同所 六七八番三〇 宅地 一七三m2二八
28 同所 六七八番三一 宅地 一七三m2二八
29 同所 六七八番三七 宅地 六一m2六一
30 同所 六七八番四八 宅地 一四五m2〇二
31 同所 六七八番四九 宅地 一六八m2四二
32 同所 六七八番五〇 宅地 一七三m2二八
33 同所 六七八番五五 宅地 一八六m2七七
34 同所 六七八番五九 宅地 四一m2五八
35 同所 六七八番六〇 宅地 二四六m2九〇
36 同所 六七八番六四 宅地 三八一m2三二
37 同所 六五七番一一 宅地 一三九四m2五一
38 同所 六五七番一三 宅地 一一九五m2三三
39 同所 六五七番九 宅地 一〇八六m2四四
計 九七五五m2三〇
物件目録(三)
1 尼崎市戸ノ内町六丁目七九二番六七 宅地 二五六m2〇六
2 尼崎市戸ノ内町三丁目七七一番二一 宅地 二八一m2七一
3 同所 七一五番五七 宅地 六七m2〇四
4 同所 七一五番七六 宅地 九六〇m2〇六
5 同所 七一五番四六 宅地 三三一m2〇七
6 同所 七一五番四七 宅地 四五四m2二八
7 同所 七一五番四八 宅地 一二七m2〇〇
8 同所 七五六番九 宅地 一一一m2三〇
9 同所 七五六番八 宅地 二〇四m2〇九
10 同所 七三八番一四 宅地 七三〇m2二四
11 同所 七三八番六 宅地 三三三m2四八
12 同所 七四〇番六 宅地 一六一m2九八
13 同所 六五七番一四 宅地 九六七m2二九
14 同所 六五七番一五 宅地 一一三一m2二七
15 同所 六五七番六 宅地 一四一三m2四五
16 同所 六五七番七 宅地 一四一三m2四五
17 同所 六一二番二 宅地 三九八m2四一
計 九三四二m2一八
登記目録
一、1 所得権移転請求権仮登記
甲区 順位三番
受付 昭和四九年一二月九日第三五七三〇号
原因 昭和四九年一二月九日代物弁済予約
権利者 中華民国台湾台北市吉林路壱〇〇号
中国国際商業銀行
2 所有権移転請求権仮登記
甲区 順位四番
受付 昭和五一年一月二九日第二三三四号
原因 昭和五一年一月二六日代物弁済予約
権利者 同右
3 根抵当権設定
乙区 順位一番
受付 昭和四六年一一月二七日第三五二二七号
原因 昭和四六年一一月二七日銀行取引契約同日設定
債権極度額 金二〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 東京都千代田区大手町一丁目五番五号
株式会社富士銀行(取扱店 十三支店)
付記一号 一番根抵当権変更
受付 平成六年一月一二日第七一二号
原因 平成六年一月一一日変更
債権の範囲 銀行取引、手形債権、小切手債権
4 根抵当権設定
乙区 順位二番
受付 昭和四九年一二月九日第三五七二九号
原因 昭和四九年一二月九日設定
極度額 金五〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 中華民国台湾台北市吉林路一〇〇号
中国国際商業銀行
二、1 根抵当権設定
乙区 順位一番
受付 平成四年一一月二四日第二八三四二号
原因 平成四年一一月二四日設定
極度額 金三億五〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 中華民国台湾台北市吉林路一〇〇号
中国国際商業銀行
付記一号 一番根抵当権変更
受付 平成六年八月九日第二四二六三号
原因 平成六年八月九日変更
極度額 金八億四〇〇〇万円
2 根抵当権設定
乙区 順位二番
受付 平成六年八月九日第二四二六六号
原因 平成六年八月九日設定
極度額 金一億六〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 同右
三、1 根抵当権設定
乙区 順位一番
受付 昭和五三年六月三〇日第二二三七七号
原因 昭和五三年六月二八日設定
極度額 金二五〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 大阪市阿倍野区松崎町三丁目一六番八号
相互信用金庫(取扱店 尼崎支店)
付記一号 一番根抵当権変更
受付 昭和六〇年八月二日第二二八五七号
原因 昭和六〇年七月二六日変更
極度額 金五〇〇〇万円
2 根抵当権設定
乙区 順位二番
受付 昭和六一年一二月四日第四〇一五三号
原因 昭和六一年一二月三日設定
極度額 金一億円
債務者 被告
根抵当権者 東京都千代田区大手町一丁目九番三号
中小企業金融公庫(取扱店 大阪支店)
3 根抵当権設定
乙区 順位三番
受付 昭和六二年七月一日第二二七七三号
原因 昭和六一年一二月三日設定
極度額 金八〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 同右
四、所得権移転請求権仮登記
甲区 順位三番
受付 昭和三二年九月二〇日第一五七三二号
原因 昭和三二年六月一日売買予約
権利者 大阪市阿倍野区松崎町二丁目一一六番地
巫幸恵
五、根抵当権設定
乙区 順位一番
受付 平成六年四月七日第一一四六六号
原因 平成六年四月七日設定
極度額 金二億二〇〇〇万円
債務者 被告
根抵当権者 東京都千代田区大手町一丁目九番三号
中小企業金融公庫(取扱店 大阪支店)
以上
別図1
<省略>
別図2
<省略>
別図3
<省略>
別図4
<省略>
別図5
<省略>
別図6
<省略>